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松村 邦明

松村 邦明

奈良県生駒市在住のデザイナー、しろくまデザインの松村 邦明(まつむら くにあき)さんは、ナララボのロゴをつくっていただいた方です。今年(2022年)夏に、デザインによる地域創生を目指すプログラム「デザインキャンプ奥大和」に参加されました。松村さんの住んでいる生駒山の中腹にあるレストラン「ラッキーガーデン」でお話をうかがいました。

CONTENTS

デザインキャンプ奥大和

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まず「デザインキャンプ奥大和」について教えてください。

「奥大和」は奈良県南部・東部地域の総称です。「デザインキャンプ奥大和」は、この地域で事業を行われている方々が抱える課題について、国内外のデザイナーが現地で事業者の方々と共同生活することを通じ、「デザインの力」で解決していこうとする試みです。奈良県が主催して2016年から実施されています。

2022年には3つの事業者が参加し、私は「大橋茶屋(おおはしちゃや)」さんのチームとして、通訳+コーディネーターの福井晴浦さんと共に、大橋茶屋の経営者の小屋敏典さんのもとで約1週間、過ごしました。本来であれば、シンガポールのSectionというデザイン会社の Li Jing(リジン)さん、Xiu Mei(シュウメイ)さんともご一緒するはずだったのですが、残念ながらコロナの影響で来日できず、毎日現地とシンガポールを結んでのオンラインミーティングを繰り返しました。現地滞在の後、次の1週間でアイディアをまとめ、提案するというプログラムです。

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「大橋茶屋」はどこにあるのですか。

世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の参詣道のひとつである「大峯奥駈道(おおみねおくがけみち)」にそびえる大峯山の麓にあります。
また、天川村の洞川温泉街を抜けた先でもあります。

大峯奥駈道は、吉野と熊野を結ぶ大峯山を縦走する歴史ある修験道(しゅげんどう)の修行の道です。修験道は、山へ籠もって厳しい修行を行うことで悟りを得ることを目的とする日本古来の山岳信仰で、後に仏教にも取り入れられた日本独特の宗教です。修験道を実践されている方は「修験者(しゅげんじゃ)」「修行者(しゅぎょうじゃ)」「行者(ぎょうじゃ)」「山伏(やまぶし)」と呼ばれます。

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JR東海のCM「いざいざ奈良」吉野編にも、そのような方々が登場していましたね。

はい。大峯山は、CMで紹介された吉野と熊野を結ぶ修験道として、修験道の開祖とされる「役行者(えんのぎょうじゃ)」が8世紀に開いた重要な聖域です。以前は、各地の「講(こう)」から修行者が大勢いらっしゃっていたそうです。

画像引用:

YouTube 「いざいざ奈良」チャンネル 吉野編

修験道の文化が息づく大橋茶屋

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「大橋茶屋」の抱えていらっしゃった課題とはどのようなものだったのでしょうか。

大橋茶屋の現経営者の小屋さんは、本業は大工さんなのですが、2021年から3年間、天川村の特別地方公共団体である洞川財産区が所有する大橋茶屋の経営権を取得されました。大橋茶屋の経営権を得られたのは「行者さんの高齢化に伴い、大峯山の登山者の減少が著しく、このままでは修験道の文化が途絶えてしまうのではないか。何とかしなければ。」という強い想いからでした。
デザインキャンプに参加されたのも「若い方や、外国の方にも大峯山のことをもって知ってもらいたい。一人でも多くの人に大峯山に登ってもらいたいから」とのことです。
ただ、大峯山は、宗教上の理由から、現在でも大橋茶屋からほんの数分の場所から女人禁制のエリアとなり、女性は立ち入ることができません。

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今回、ご一緒されたシンガポールのデザイナーの方は、おふたりとも女性でしたね。女人禁制、ということで抵抗感のようなものはなかったのでしょうか。

その部分は、所与の条件として受け入れられたようです。逆に外国でも知られるようになった「禅」や「マインドフルネス」の聖地として、強い興味を持たれていました。

#いつ来てもええすよ

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どのような提案をされましたか。

私たちのプランは、3つのステップで目標を達成するアイディアです。

1.

まず大橋茶屋に人を集める

2.

大橋茶屋で小屋さんや行者さんと話したり、展示されているものを見たりすることで、大峯山のことを知ってもらう

3.

大峯山に登る人が増える

男女、年齢を問わず、大橋茶屋に集まることが楽しいと思ってもらうのが、第一歩です。実際に、小屋さんは天川村に移住してきた方々と集まってバーベキューをしたり、デザイン・ヨガ・ゲストハウスオーナーなど様々な才能のある方との交流があり、そこにはコミュニティが出来つつありました。

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現地滞在中に、山にも登られたのですね。

はい。小屋さんと4歳の息子さんと一緒に登りました。往復約6時間の道のりで、岩場もあります。小屋さんは多くの時間、息子さんのそばにいて、岩場もサポートとしてふたりで登り切りました。険しい山道を歩いているうちに、小屋さんと息子さんの信頼関係が一歩一歩強くなっていくのを目にしているようでした。小屋さんは「息子さんの未来を祈って」登っているのだと感じました。大橋茶屋でお会いした行者の方も「生まれ育った地域の平和を祈って毎年歩いている」とおっしゃっていました。自分も気づけば「誰かのために」歩いていました。

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その様子をショートムービーで拝見しました。素敵な動画でした。

その動画もシンガポールのデザイナーが編集してくれたものです。コロナ禍で来日がかなわなかった彼女たちのために、現地の雰囲気を伝えるために自分のiPhoneで少しずつ動画を撮って送っていました。それを、自主的に編集してショートムービーにして送り返してくれたのです。編集をお願いしていたわけではなかったので、ムービーを見たときに、とても感動しました。

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ご提案されたタグラインは。

最初の小屋さんとの共同生活をいったん終えて、大橋茶屋を離れるときに、小屋さんから軽い口調で「いつ来てもええすよ」と言われた言葉が、自分の中で大きくなっていきました。訪れる前には、「世界遺産」「修験道の聖地」と構えていた自分でしたが、「いつ行ってもいいんだ」と新鮮な気持ちになったのです。
シンガポールのデザイナーさんとも話しているうちに、彼女たちは「いつ行ってもいいのね」「なぜ私たちは今まで行ったことがなかったのかしら」と考えを展開させて、英語で"What are you waiting for?"(なにを待っているの、なぜ行くのをためらっているの、行くのが当たり前じゃない)と、より飛躍させた素晴らしいタグラインを提案してくれました。

──

大峯山の堂々たる姿と字体のコントラストに意外性があって、とても面白いです。

小屋さんからの「若い方にどんどん来てもらいたい」というメッセージを、シンガポールの彼女たちが解釈してポップに仕上げてくれました。英文字は実際に小屋さんに書いてもらった直筆なんですよ。
今後はこのデザイン提案を元にオリジナルのタオルを作って販売し、売上を茶屋の運営や修験道の保存活動に使うなど、できることを検討しています。
「#いつ来てもええすよ」というタグが、誰かが「大橋茶屋」に興味を持ってくれる第一歩となって、茶屋を訪れてくれる人がひとりでも増えてもらえれば、デザイナーとしてこれほどうれしいことはありません。

インタビューを終えて

インタビューは松村さんの地元の生駒山にある「森のレストラン ラッキーガーデン」で行いました。生駒市街に開けた眺望と、スリランカカレーの匂いとヤギの鳴き声のする楽しい空間でした。
インタビューには、松村さんの仕事仲間のフォトグラファー、01CREATIONの茶本 晃生(ちゃもと あきお)さんもご同席されました。茶本さんも奈良を拠点に関西一円で写真・映像撮影で活躍されています。
おふたりで、デザインキャンプの話以外にも、熱心に奈良の地域活性化について語っていただき、奈良の魅力を高めたい、というエネルギーをひしひしと感じました。

松村 邦明

松村 邦明(まつむら くにあき)

しろくまデザイン 代表。
2004年 神戸芸術工科大学卒業。救命・アウトドア用品メーカー、パソコン周辺機器メーカー、ホームページ制作会社を経て、しろくまデザインを開業。
グッドデザイン賞受賞(2010・2011)、奈良GALA 銀鹿賞・白鹿賞受賞(2018・2020)。
奈良デザイン協会・生駒商工会議所会員。

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