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宇陀と南エストニアの森を音楽でつなぐ

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小巖 仰

小巖 仰

先月6月21日は夏至の日。北半球では最も昼の時間が長い日でした。6月21日と22日、奈良県宇陀市(うだし)では、ヨーロッパ北部の国、エストニアからゲストを招いて、「Aigu Om! JAPAN 2024 『森と音楽』 エストニアと宇陀の夏至祭」が開催されました。

エストニアは、バルト海に面したバルト三国のひとつで、さらに北にあるフィンランドとは、海を挟んでわずか80kmあまりの距離にあります。人口約130万人、面積は4.5万平方キロメートル(九州と同じくらい)ですが、近年、公的サービスのほぼ全てが電子化された世界最先端の電子政府の国としても注目されています。

宇陀市は2023年にエストニアのサーレマー市と、教育を中心とした交流についての基本合意書を締結しました。宇陀市内の中学生がサーレマー市に短期留学し、起業家精神(アントレプレナーシップ)を学ぶなどの交流活動を行っています。そのような背景もあり「夏至祭」も実現しました。

宇陀の森が音楽で満たされた2日間の「夏至祭」。実行委員会の中心メンバーで、エストニアのアーティスト、マリ・カルクンさんを招聘した音楽事務所、株式会社ハーモニーフィールズ取締役の小巖 仰(こいわ こう)さんに、「夏至祭」が終了した翌週、お話をうかがいました。

CONTENTS

宇陀とエストニアがつながった2日間の「夏至祭」

Aigu Om! JAPAN 2024 『森と音楽』 エストニアと宇陀の夏至祭

夏至の日没セレモニー
6/21(金) 18:30 – 19:30
【会場】 陽月の森
【出演】 マリ・カルクン

森のシンポジウム:エストニアと宇陀の森、暮らしをつなぐ
6/22(土) 10:30 – 12:00
【会場】 宇陀市文化会館
【出演】 三浦豊 / 森本達郎 / ターヴィ・タッツィ / ヤンネ・ファンク

夏至の音楽祭
6/22(土) 15:30 – 17:15
【会場】 宇陀市文化会館
【出演】 マリ・カルクン / サキタハヂメ / かとうかなこ / ヤンソン・チヤコ

夏至のマルシェとワークショップ
6/22(土) 11:00 – 16:00
【会場】 酒蔵カフェ 久保本家酒造 はなれ前 / 宇陀市文化会館

宇陀市文化会館

──

梅雨の時期で天候も心配された中、6月21日の夏至当日は、雨の予報が奇跡的に晴天に変わりました。「夏至祭」のオープニングを飾る「夏至の日没セレモニー」は、無事屋外で開催されました。
翌日22日は、宇陀市文化会館で「森のシンポジウム」や「ワークショップ」、コンサート「夏至の音楽祭」、文化会館近くで「夏至のマルシェ」が開催され、多数の参加者で賑わいを見せました。

小巖さんが、宇陀市での音楽イベントに関わられたのは、今回が初めてだったのでしょうか。

はい。今回、実行委員長をつとめられているヤンソン智也子(ちやこ)さんとは、私が以前、奈良市に住んでいる頃からの知り合いです。ヤンソンさんは昨年、平群町(へぐりちょう)から宇陀市に移住されて、「一度宇陀市に遊びに来てください」とおっしゃってくださっていました。
今年の2月に宇陀市を訪ねて、近況を話している中で、6月にエストニアのアーティストが来日することをお伝えしました。

──

その頃にはもうアーティストが来日することは決まっていたのですね。

今回、出演してくれたエストニアのマリ・カルクンさんの来日は、1年前ぐらいから調整していました。

私とエストニアの関係をもう少しさかのぼると、エストニアの方から「2018年がエストニア独立100周年で、日本で記念イベントをやりたい」という相談があって、日本の各地でエストニア音楽祭を開催しました。それがきっかけで、ほぼ毎年、エストニアのミュージシャンを1~2グループ、招聘していました。

そんなことを智也子さんに話したところ、宇陀市の広報誌を見せていただいて、初めて宇陀市とエストニアとの接点を知ったわけです。
私も今回のイベントの準備を通して、宇陀市のいろいろな方と話す機会があったのですが、宇陀市として、これまでの教育やITの分野での交流に加えて、音楽を通して、より深くエストニアのことを知る良い機会だと、とらえていただいたようです。

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そのような経緯で、今回、音楽を中心としたイベントが生まれたわけですね。コンサートの他にも、「森のシンポジウム」という森林保全の大切さをテーマにしたシンポジウムもありました。このような複合的な構成にした意味はありますか。

2つ理由があります。
1つは、エストニアで今年5回目を迎える"Aigu Om!"(アイグ・オム)というフェスティバルがあり、そのやり方に習って、エストニアでやっていることを宇陀でもやろう、というのが1つの流れ。
もう1つは、私自身が大学では、農学部の林産学科で学んでいたので、興味があったことです。

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大学の林産学部で学ばれていたとは、それもすごい偶然ですね。

はい、「森と音楽」をテーマにしたいという個人的な願いもあったので、その話をしたところ、企画が通りました。
宇陀は森が深い地域で、林業に熱心に取り組んでいらっしゃる方がいた、ということもあります。
あと、今回テーマとしては掘り下げることができなかったのですが、宇陀には古くからの薬草文化があり、南エストニアもハーブの栽培にとても力を入れている地域という共通点もありました。

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"Aigu Om!"とは、どのような意味なのでしょうか。

直訳すると「時間がある」というだけの言葉ですが、「時間はたっぷりある。ゆっくり自然体で生きよう。」という考え方です。
マリ・カルクンさんによると、ご自身が南エストニアの森の中で暮らす中で、自分の中に"Aigu Om!"な時間が流れていることを実感されているとのことです。マリさんが森で見つけたコンセプトで、かなりパーソナルな体験からのスタートですが、今回のフェス全体を包みこむ大切なテーマとなりました。

マリ・カルクンさんとのコール・アンド・レスポンス

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マリ・カルクンさんは、日本でエストニア音楽祭を開催された2018年よりも前からご存知だったんですか。

アーティストとしては、ワールドミュージックの世界では結構名前が出てくる方だったので知っていたのですが、実際にしっかり音楽を聴きこんで関わるようになったのは、2018年のフェスの準備段階以降です。
マリさんは、20代の頃から日本がとても好きで、仕事ではなく個人的にも来日されていたようです。またそれまでにマリさんのアルバムが日本でも3枚出ていましたので、2018年のフェスにご参加いただきました。

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マリさんはどのような音楽性をお持ちなのでしょうか。

マリさんはエストニア南東部のヴォルという地域にお住まいで、ヴォル語という言葉があるのですが、かなり年配の方しか話せなくなっているそうです。またルノソングという伝統的な歌の手法があって、労働歌のようなものなのですが、そういった消えかかっている歌や言葉を自身の音楽に積極的に取り入れています。
カンネルというギターのように弦をはじいて音を出すエストニアの民族楽器を演奏しながらの弾き語りもされます。

ルノソングは、今回のイベントの「夏至の日没セレモニー」でも歌われていましたが、船の船頭さんが歌って、漕ぎ手がこたえる、というコール・アンド・レスポンスみたいな感じです。

マリ・カルクンさん

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今回の「夏至の日没セレモニー」でも、キャンプファイヤーを囲んでマリさんと参加者が歌い合って、素晴らしい一体感がありました。
ずっとお仕事をご一緒されている小巖さんからご覧になって、マリさんの魅力はどんなところにありますか。

独特なリーダーシップをお持ちの方です。ぐいぐい引っ張るタイプでもないのですが、おおらかで、エストニアのスタッフも日本のチームも全部まとめてくれました。

マリさんの話で印象的だったのは、「エストニアの音楽の伝統を守る」という面ももちろんあるのですが、「それが自分から生まれたかどうか」というのをとても大事にするんですね。伝統文化に関しても勉強はするけれども、アウトプットに関しては自分を通して納得できたものを出すという、バランス感覚をとても大切にされています。

エストニアを何度か訪問して気づいたのですが、実はエストニアのITもそうなんです。
エストニアは最先端の電子国家と言われていて、スタートアップ企業もユニコーン企業(市場評価額10億ドル以上のベンチャー)も多数存在します。IT企業の方々も、高度な効率化を図りながらベースとなる伝統的な考え方を守ったり、最新の技術を外部から受け入れながら自分の内部の疑問から新しい視点を生み出したり、とバランス感覚をお持ちなのが、発展の秘訣なのかもしれません。

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それでいて、マリさんは親日家でもいらっしゃる。

日本で好きなのは「ご飯」って言ってましたね。大阪に来たら、絶対お好み焼きを食べに行きたいそうです。なにより日本人と接するのが一番居心地が良くて、日本が大好きとのことです。

「夏至の日没セレモニー」でのマリ・カルクンさんのパフォーマンス

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今回のリーフレットのデザインがとても美しく、印象に残りました。

このデザインに関しては、実行委員会のメンバーで、宇陀や東吉野で活動されているデザイナーの植田あゆさんの感性に頼ったところが大きかったです。植田さんには、エストニアでは日本人が思っている以上に「夏至」を大事にしていることを理解していただいて、太陽のエネルギーと宇陀の山々をモチーフにリーフレットやウェブサイトをデザインしていただきました。

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クラウドファンディングも実施されていました。成果はいかがでしたか。

元々クラウドファンディングは考えていなかったのですが、植田さんが「自分で文章を書くから」と実行委員会のみんなをリードしてくれて、「キャンプファイヤー」で実施しました。

1ヶ月もない短期間の募集でしたが20万円を超える支援をいただき、また金額以上に、ご支援した方と人とのつながりの財産というか、そちらの方が大きかったので、やってよかったです。

公式ウェブサイト・デザイン(リンクは本文後に記載)

奈良で音楽事務所を起業

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小巖さんのプロフィールをいただいて初めて知ったのですが、今は西宮にお住まいですが奈良で働いていらっしゃったことがあるのですね。

大学を卒業して、静岡の企業に3年勤めたのですが、奈良に叔父が経営していた会社があって、食品の素材研究の仕事で声をかけてくれました。私も農学部出身で、仕事の内容に興味があったので入社しました。

そこでは営業も含めていろいろな仕事をやらせてもらったのですが、スウェーデンからブルーベリーを輸入する仕事がありました。たまたま先方の担当者が、スウェーデンの伝統音楽をフィドルというヴァイオリンのような弦楽器で演奏される方で、ブルーベリーとは別にCDを送ってくれることがありました。

自分はそれまでドラムを叩いていたこともあってロックは好きだったのですが、CDを聴いていたら、プログレっぽいというか、変拍子がとても多くて「これロックやん」と思って、スウェーデンの方ととても盛り上がりました。

またそのときは奈良市に住んでいたのですが、春日大社や興福寺で行われる薪能(たきぎのう)を観に行ったり、日本最大級の大太鼓(鼉太鼓-だだいこ)を持つ春日大社で雅楽をやっている方と出会ったり、「伝統音楽って面白いな」と思い始めた時期でした。

大学を出て就職するときは、音楽を職業とすることは考えていなかったのですが、スウェーデンの方から「音楽が好きだったら音楽をやろう」という話をされて、叔父には「ごめんやけど」と言って会社を辞めて、2000年に奈良で音楽事務所を起業しました。

春日大社 鼉太鼓(復元品)

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その頃から奈良で音楽とのつながりがあったのですね。

最初は全く音楽でどうやって食べていくかわからなくて、運送の仕事を数年やりながらでした。
そのうち、スウェーデンのフェスに行ったりして、いろいろなアーティストに出会ったり、大使館とのコネクションができて、日本でも海外の都市との姉妹都市でのコンサートを企画するような機会も増えてきて、だんだんとビジネスになっていきました。

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会社のホームページを拝見すると、北欧系のアーティストが多いです。

北欧を中心に、民族音楽をベースとするいわゆるワールドミュージックというのを全体的に扱うようになってきています。ニッチであまり競合がいない分野でもあります。

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20数年前に取引先だったスウェーデンの方との個人的なつながりから始まって、今回は宇陀市とエストニアのつながりへと広がっていったのですね。
まだ決まっていないのかもしれませんが、来年以降も宇陀市でのイベントは続くのでしょうか。

今回のフェスでは、宇陀市のまちづくり応援補助金を使わせていただき、また宇陀市役所の様々な方に、人的にもサポートをいただいて大変感謝しています。
会場でアンケートをとったのですが、ありがたいことに「来年もやってほしい」という期待の声もかなりありました。来年のイベントについて、具体的にはこれから企画していく段階です。

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最後に、小巖さんがこれからどんな活動をしていきたいか、話をうかがえますか。

個人的な話になるかもしれませんが、ハーモニーフィールズ(Harmony Fields)という社名のHarmonyには「調和」、Fieldsには「分野」という意味があって、音楽といろいろな「分野」が「調和」できたらいいな、というのをずっと考えてきました。

今回の宇陀市でのイベントは「森」と音楽を「調和」させたのですが、音楽の力をつかって「地域調和」だったり「人間調和」だったり、いろいろな「分野」で「調和」していくきっかけをつくれたらいいなと思っています。

「夏至の音楽祭」ステージ

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宇陀の森と南エストニアの森、エストニアのマリ・カルクンさんと宇陀市に集まった人たちみんなが「調和」し一体となった、奇跡の2日間でした。ありがとうございました。

小巖 仰

小巖 仰(こいわ こう)

株式会社ハーモニーフィールズ(Harmony Fields)取締役。音楽プロデューサー。

尼崎市出屋敷生まれ、父は奄美大島喜界島&母は淡路島出身。
静岡大学林産学科卒業後、静岡の総合商社勤務をへて奈良の食品開発メーカーで管理職に。
仕入先のスウェーデンで北欧音楽と出会い、2000年に念願の北欧音楽を中心とした制作事務所 Harmony Fieldsを設立。

以降ヨーロッパを中心に、世界の伝統音楽や先住民族の音楽に興味を持ち、音楽家やフェスティパルを訪ね歩く。訪問国の暮らしや自然との関わりについても積極的にリサーチを行う。
北欧を含めた世界の音楽家を日本に招き、創造的かつ異色のコンサートをプロデュースしている。これまでに20ヵ国以上、100以上の来日公演に携わる。
コロナ期間中もオンラインを介して様々なアーティストを紹介したり、北欧の文化を伝える講演を行ったりしていた。

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