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お伊勢まいりのひとりひとりに「ありがとう」

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川口 政樹

川口 政樹

今回は、三重県の観光DXをとりあげます。理由は「観光客がどこの観光地に行って、どこに宿泊し、なにを買ったか」という行動データを丸ごと把握して、それを次の観光プロモーションに活用しようというビッグデータの取り組みを、ホテルや鉄道会社といった1事業者単位ではなく、自治体(県)として取り組んでいるというダイナミックさに興味を持ったからです。

三重県庁に、観光部観光戦略課の川口 政樹(かわぐち まさき)様をお訪ねしました。観光DXにかける熱い志と三重県を訪れる人々に対する温かい感謝の思いに触れることができました。

CONTENTS

No.1観光ウェブメディアに挑戦

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川口様は以前、三重県観光連盟に出向中、連盟が運営する公式サイト「観光三重ホームページ」のPV(ページビュー = サイトで表示されたページの閲覧数)を劇的に伸ばされました。その後、三重県観光部に戻り、観光DXに取り組まれています。

今回の観光DXへの取り組みをうかがう前に、「観光三重」のプロモーションについてお聞かせください。

私は三重県庁に入庁したときに出納局に配属され、その後、農林・土木・福祉といった部署を経験し、2016年に三重県観光連盟に出向しました。

着任当初、私は観光のプロでもなく、また観光連盟の予算も当時全国最下位の規模だったため、やれることが限られていました。例えば、ある観光地や名産品等の素材を取りあげた特集サイトをつくろうとすると100万円かかる場合もありますが、そのような予算もあまりない状況でした。国の補助金を取りに行こうとしても、制度上全額補助されるわけではなく1/2の予算は観光連盟で確保する必要があり、その元手がないため、手をあげることもできませんでした。ただ100万円で特集サイトは作れなくても、テキストと写真だけの記事であれば、1記事3万円程度でつくることができます。サイト分析でもスマホ経由のアクセスが多い結果が出ており、今後もスマホでの閲覧が主流になっていくため、それほど凝ったデザインは必要ないと割り切り、コンテンツを充実させていった結果、サイトの閲覧数も増加していきました。

観光サイトの役割は、県を訪れようとする人への情報提供や、エンゲージメント(深い関係性)を高めていくことです。その効果を「閲覧数No.1に挑戦」というかたちで、わかりやすい“数字”として見せたかったのです。

(「観光三重」HPより。リンク先は本文後に記載)

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「観光三重」サイトの閲覧数が急増した背景に、SNSでの展開があると認識しています。観光というテーマと相性がいいInstagramから、TikTokまで幅広く展開し、非常に力を入れられていたようですが、これにはなにか理由がありますか。

SNSは、職員で分担し、自らが勉強して試行錯誤しながら取り組みました。SNSの運用ノウハウは、本を読んだりWebで調べたりしつつ、トライ&エラーを繰り返して身につけていった感じですね。一部、SNS広告も使いましたが、例えばTwitterの投稿なら「スマホでも読みやすいように1行の文字数は16文字以内」など、費用を使わなくても登録者数を増やすやり方はいろいろあります。SNSは予算が少なくても活用しがいがあるメディアだと考えています。

(「観光三重」公式SNS・メルマガ フォロワー数 2020年当時の三重県観光連盟作成資料より)

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結果として、「観光三重」は『2019都道府県公式観光情報サイト閲覧数ランキング』で全国1位、公式SNS・メルマガの都道府県別総フォロワー数全国1位(2020年12月時点)という素晴らしい結果をおさめられました(『閲覧数ランキング』は日本観光振興協会調べ。総フォロワー数は三重県観光連盟調べ)。

この結果が、観光庁の「DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進事業」にも採択された三重県の観光DXプラットフォームの構築への取り組みにつながっていきます。

観光三重サイトの仕事は充実していて、まだまだ続けたいと当時は考えていたのですが、三重県庁からの出向期間は5年が期限ということもあり、2021年4月に県庁の観光部に戻りました。その時点で、既に観光DXプラットフォームに使える財源は確保されていましたが、予算の細かい使い道や、システム運用会社等の実施体制はまだ決まっていない部分もありました。それで、コンサルティング会社(百五総合研究所)とどんなことをやるのが一番いいのか検討しつつ、県内の観光事業者へのヒアリングを続けていきました。

「みえ旅おもてなしプラットフォーム」にこめられた「おもてなし」の心

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それが、現在も実施されている三重県独自の観光DX事業である「みえ旅おもてなしプラットフォーム」となっていくわけですね。「おもてなし」という言葉が特徴的です。

プラットフォームの立ち上げにあたって、大事にしたのが「地域のファンづくり」という考え方です。「地域のことを大切に思ってくれる方にリピートしてもらって、持続可能な観光地をつくっていこう」ということなのですが、具体的には「お伊勢まいりに来られる方をおもてなししたい」というイメージが最初にありました。

三重県には伊勢神宮があり、お伊勢まいりに毎年、また半年ごとに来られる方など数多くいらっしゃいます。これはとてもありがたいことで、そのおひとり、おひとりに「ありがとう」と言いたいのですが、そのような仕組みが今まではありませんでした。そういった方々が毎年同じ宿にお泊りであれば、その宿でリピーターを把握しておもてなしをしてもらえるのですが、宿泊施設を変えたらわからなくなります。行政側では、今まではお伊勢まいりの方々とのタッチポイントはほとんどなく、宿泊施設に「宿泊台帳を見せてください」とお願いするのも、現実的ではありません。

おかげ横丁(三重県伊勢市)

他国の事例なのですが、スイスの山岳リゾートであるツェルマットでは、地元の観光局が全宿泊施設の宿泊データを一括管理しています。そのデータを活用して、20年間、毎年ツェルマットを訪れた観光客を「ロイヤルゲスト」と認定して、バッジの認定式を行っています。そのバッジをつけているとツェルマットのどこのレストランに行っても一番良い席に案内してくれるそうです。

三重県でも、こういった「ロイヤルゲスト」を「おもてなし」して、全員に「ありがとう」という仕組みができないかと考えました。そして立ち上げたのが、地域で旅行者のデータを一元管理して、データ分析や情報発信をすることができる「みえ旅おもてなしプラットフォーム」です。

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つまり「ロイヤルゲスト」や「地域のファン」をDXによって「見える化」する取り組みなのですね。

はい。また今回の取組を進めるにあたっては、宮城県の気仙沼市の「気仙沼クルーシップ」の仕組みを参考にしました。
気仙沼では、震災からの復興の取り組みとして、住民や観光客を対象とした観光CRM(Customer Relationship Management = 顧客関係管理)を実施しています。コンセプトがは「気仙沼という共通の船に乗り込んだクルー皆が、気仙沼を元気に動かすクルーシップ」で、気仙沼市民であろうと観光客であろうとクルーシップでつながる仲間という考え方です。
仕組みとしては、「気仙沼クルーカードアプリ」をダウンロードすると、市内の加盟店でポイントを貯めることができ、その購買データは気仙沼DMOに蓄積され様々なプロモーションに活かされています。

「みえ旅おもてなしプラットフォーム」でも、気仙沼と同様にCRMに旅行者のデータを集約化し、地域のファンの見える化をしたうえで、さまざまな施策に生かしていければと考えています。

(「みえ旅おもてなしプラットフォーム」全体イメージ 三重県作成)

「みえ旅おもてなしプラットフォーム」でビッグデータを活用

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「みえ旅おもてなしプラットフォーム」の具体的な仕組みを教えてください。

プラットフォームでは、観光客に対する「調査データ」(匿名データ)と、観光客の実際の行動データを集積した「旅行者データ」の2種類のデータを集積しています。

「旅行者データ」の蓄積に向けては、航空会社のマイレージプログラムを参考に「みえ旅おもてなしポイントプログラム(略称:みえポ)」を開始しました。観光客が「みえ旅おもてなし施設」でアンケートに回答してくれたり、宿泊してくれたりといったことに対して、感謝の気持ちを込めて「地域共通ポイント(みえポ)」を付与するものです。現在は貯めた「みえポ」の数に応じてプレゼントに応募できるようになっていますが、今後は、多くの「みえポ」を貯めていただいた方を「ロイヤルゲスト」と認定して、特別な「おもてなし」ができるようにしていきたいと考えています。

(「みえポ」ステッカーイメージ 三重県作成)

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「みえポ」の付与によって観光客にはメリットがある一方、地域の観光事業者や飲食店等に「みえ旅おもてなし施設」として協力をしていただく仕組みとなっています。

「みえ旅おもてなし施設」は、施設や店舗にQRコードつきのステッカーを貼ってもらうだけでなく、「おもてなしサービス」として、割引やプレゼントなどを事業者さん負担で提供いただく必要があります。その分の見返りがないと協力していただくのは難しいので、施設や店舗独自のアンケート調査もできることを伝え、データを適切に活用することでサービス改善につながることについて理解を得ながら、少しでも前に進めていきたいです。

三重県最新の観光スポット『VISON(ヴィソン) 』
2021年4月オープン以来、県内外から多くの観光客を集めている日本最大級の商業リゾート

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プラットフォームのこれからの展開についてお聞かせください。

プラットフォームの「調査データ」と「旅行者データ」のうち、今年度(2023年度)は「調査データ」を、地域の自治体やDMOに対して広く活用してもらえる仕組みに力を入れています。

三重県では、県内主要な観光地14ヶ所で、実際の観光客からアンケートをとって、毎年「三重県観光客実態調査報告書」(URLは本文後に記載)を作成しています。これまでは紙で発行するだけだったのですが、今年度は、データ分析・ビジュアル化(可視化)のツールである「タブロー(Tableau)」を活用し、ウェブブラウザ上でわかりやすく表示することで、今までできなかったクロス分析ができるようにしようと考えています。

例えば、三重県内からの観光客では「子供連れの家族旅行」が多いのですが、首都圏からの観光客に絞ると「夫婦旅行」が多かったりします。それであれば「首都圏でプロモーションするなら、年配の夫婦をイメージしたクリエイティブをつくったらどうか」といったアイディアが生まれてきます。また、どういう客層がどういう情報源で観光情報を得ているか、ということもわかるため、コミュニケーション戦略にも活用できます。
また、三重県には伊勢神宮以外にも良いところがたくさんありますが、なかなか足を運んでいただけないという長年の課題があります。前述の調査では、県内を5つのエリアに分けて、エリアごとの観光客の実態を整理し、県内を回遊していただくための検討のきっかけになればと、考えています。

タブローを使うことで、地域の事業者に対して「三重県の観光客の動向はこうなっていますよ」という説明ができますし、事業者側でも、データに基づいてターゲットを絞った戦略的なプロモーションの立案ができるようになります。そのプロモーションの結果、客層や行動がこう変わったということが実際の「旅行者データ」から判断できて、次の施策に繋げるという、いわゆるビッグデータの循環のイメージが少しずつ見えてきています。他の地域ですと、北海道観光振興機構がタブローを活用した見やすいデータサイトを公開しているので、このようなサイトでオープンデータとしてみなさんに活用されるようにしていきたいです。

(北海道観光振興機構「観光統計データ」より)

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多様な試みで、観光DXへのチャレンジに果敢に取り組まれている姿に感銘を受けました。

自分が所属する観光戦略課は今年度(2023年度)からできた新しい課なので、課としてなににどう取り組むかも含めて検討し、試行している最中です。「みえ旅おもてなしプラットフォーム」についても、「全員にありがとうと言える」仕組みづくりの実現には全然遠いですし、僕らだけだとできないことです。遠い理想のイメージを目指しながら、現実にやれるところから一歩一歩やっているのが今の段階です。

──

ありがとうございました。

川口 政樹

川口 政樹(かわぐち まさき)

三重県観光部 観光戦略課観光戦略・マーケティング班 課長補佐兼班長。

平成8年度に三重県庁へ入庁。平成27年度から観光行政に携わり、5年間の三重県観光連盟勤務を経て令和3年度から現職。令和4年度から観光庁「広域周遊観光促進のための専門家派遣事業」登録専門家としても活動中。

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