デジタルマーケティング支援サービスサイトへ
LINE 友だち追加
教育アイコン
特産品アイコン

八重桜のアスリートを輝かせるために

教育バナー
特産品バナー

大歳 研悟

大歳 研悟

「NARA-X(ナラックス)アスリーツ」は、奈良を拠点として活動する日本初の「クラブ型実業団」女子陸上長距離チームです。選手たちが、平日の日中は、基本フルタイムで別々の事業所に勤務し、練習日や大会時のみ集合して活動するクラブチーム方式を採用しています。

サッカーの「奈良クラブ」が今年(2023年)からJリーグに昇格し空前の盛り上がりを見せる奈良のスポーツシーンで、異色の輝きを放つ「NARA-Xアスリーツ」。創立時よりチームをけん引する大歳研悟監督に、練習会場の奈良県立橿原公苑陸上競技場でお話をうかがいました。

CONTENTS

選手を気持ちよくスタートラインに立たせたい

──

先日(2023年8月5日)開催された「NARA-Xアスリーツ 2023年度体制発表会」の冒頭のご挨拶で「2017年の創部のとき、私と大井(千鶴選手)、そして佐藤薬品工業様の3者でスタートしたチームですが、本日、こうしてこれだけ多くの方に体制発表会に集まっていただけるというのは、本当に・・・感激しております。」と言葉につまっていらっしゃったのが印象的でした。当日は報道や関係者約40名が出席し、非常に盛況でした。

今回は、NARA-Xアスリーツを立ち上げた大歳監督にこれまでの経緯や、地域に密着したクラブ型実業団チームの運営について、じっくりお話をうかがいます。まず監督と陸上の出会いまでさかのぼって話をお聞かせいただけますか。

走り始めたきっかけは、小学校3年生のときの女性の担任の先生に「明日から朝、一緒に走ろう」と言われたからです。
大阪で生まれたのですが、保育園が東京だったので、大阪の小学校で言葉も違うので話せない、勉強も運動もできない生徒で、先生も気をきかせたのか、クラス全員に呼びかけたのかも覚えていないのですが、とにかく朝から走るようになりました。最初は正直、嫌だったのですが、「行きたくないです」の一言が先生に言えなかったので毎日走っていました。何ヶ月か経つと、走るのがクラスで1桁、そのうちクラスで1番となり、「大歳は走りが得意」と友達の仲間にも入れてもらえて、クラスの中で居場所ができるようになりました。

──

そのまま陸上を続けられて、大阪の上宮(うえのみや)高校から同志社大学に進学されました。

高校での競技実績は芳しくなかったのですが、小学校とは逆のパターンで「陸上を辞めたら自分のポジションがなくなるのではないか」という恐怖感がありました。それで同志社大学入学式の日に「陸上部に入れてください」と門をたたきました。

同志社大学陸上部は、最低でも高校時に近畿地区大会レベルの部員がほとんどで、大阪大会で負けていた自分は競技ではかなわなかったですが、2回生のときに「マネージャーをやらないか」と声をかけられました。当時の4回生が「あいつは絶対辞めないから、マネージャーに向いている」と言っていたらしいです。実は高校の部活の顧問から「大歳は競技者としてはいまいちだけど、マネージャーとしては日本一になれる」と言われたことがあり、その言葉を「マネージャーで」と言われたときに思い出し、マネージャーとして活動することになりました。

──

同志社大学4回生の時に、チームは日本選手権リレーで優勝しました。マネージャーとして「日本一になれたのは自分がこうだったから」という手応えはありましたか。

まずは、選手が揃っていたことが大きく、自分がどうだったかはわかりません。ただ、4回生になって引退するときに、競技に出て活躍していた選手よりも先に、みんなに胴上げしてもらえたのはうれしかったです。

マネージャーとして「選手を気持ちよくスタートラインに立たせたい。そのためにできることは全部やろう」と考えていました。関東に遠征に行く際に、電車の乗り換えの経路をすべて書いて渡したり、「24時間いつでも電話をかけてきていい」と伝えたり、選手の不安をできるだけなくして、競技に集中できるように心がけていました。関西インカレのときに、リレーのときだけ応援できる慣例だったのを、「全種目応援しよう」と全種目で校歌を歌って、怒られたこともあります。

──

学生のときから「前例がなくても、競技に出る選手のためなら」と、躊躇なく新しいことを始められていたわけですね。

「マネージメントの専門家」である行政書士として監督・社長に就任

──

大学卒業後は、2000年に奈良県の農協に就職、その後、行政書士の資格を取得され、2005年に事務所を開業されました。陸上競技については、2007年から同志社大学のコーチを務められています。

奈良県には、同志社大学2回生のときに、親が定年退職で奈良に移ったときから住んでいます。
農協は「うちに陸上部をつくっていいよ」と言われたので就職しました。大学は商学部で公共交通を専攻していたのですが、元々歴史が好きで「奈良っていいな」と思っていたので、奈良の会社で働きたかったのです。結局、農協では陸上部をつくりかけたものの実現はしませんでしたが、陸上にはこれからもたずさわっていきたいと考えていました。

行政書士になったきっかけは、「行政書士は会社の総務にあたる仕事をする」と聞いていて、「これからの陸上の世界には雑用だけのマネージャーではなく、マネージメントの専門家が必要だ」と感じていたからです。
事務所を開業してしばらくした頃、母校の同志社大学からコーチの話をいただきました。その後、強豪の奈良産業大学陸上部を指導されていた伊藤宇佐美先生に「奈良に陸上チームをつくりたいが、行政書士だったら絵を描けるだろう」と声をかけていただき、2015年にNARA-Xの原型をつくり、2016年に一般社団法人NARA-Xを立ち上げました。

──

2017年に最初の選手であり、現在もNARA-Xアスリーツで活躍されている大井千鶴選手が入部されます。

2015年から実質2年間は、「日中は奈良県内の企業でフルタイム勤務。競技のみクラブチームメンバーとして活動する」という「クラブチーム型実業団」は前例がなく、選手の勧誘に行っても敬遠されてチームに呼ぶことができませんでした。2017年にNARA-Xアスリーツに入部してくれた大井選手は、昼間は佐藤薬品工業で働き、夜に陸上のトレーニングを続けて、今ではチームのエースです。

──

2019年には一般社団法人NARA-Xのトップチーム部門を分社化して、合同会社NARA-Xアスリーツを設立。大歳監督は社長も務められています。

奈良の地域密着型のスポーツチームとして、積極的にSNS等を通じて情報発信されていますが、ホームページでも表明されている「スポーツを通じて奈良ブランドを世界へ」というアイディアは最初からあったのでしょうか。

奈良の人って、失礼な言い方かもしれないですけど「いいものを持っているのに、なぜ発信しないのだろうか」って思うんです。なぜ大仏と鹿だけなんだろう、こんなにいいものを持っているのに発信しないのはもったいない。

例えば、奈良の伝統工芸にしても、扇子だったり、墨であったり、晒(さらし)であったり、たくさんある。それらを作られている職人の方々って、よく考えたらアスリートです。日々鍛錬して技術を磨いている、それは陸上であれば、日々練習してタイムを上げていくのと共通しています。たまたま分野が違うだけで、やっていることは一緒ではないでしょうか。己を磨いていかないと戦えない世界です。それを、文化だから、スポーツだから、と分ける必要はないのではないかと、昔から思っていました。突き詰めたら一緒なので「協同して、奈良というブランドを宣伝していったら面白いんじゃないかな」と考えたのです。
SNSでNARA-Xの選手が頑張っている様子を知った奈良の職人さんたちがそれをリツイート、リポストしていく。逆に奈良のいいものをつくっている職人さんたちの投稿を、僕らが拡散していくことで、相乗効果が出てくればいいわけです。

──

その思いが、チームのキャッチフレーズ「シルクロードの終着駅、奈良から世界へ」に集約されているのですね。ユニフォームの綺麗なピンクも奈良にゆかりのある色なのでしょうか。

チームカラーは、奈良の県花の「八重桜」をイメージして、選手が光輝くようにと、わざわざ「フラッシュピンク」、蛍光ピンクを使っています。ユニフォームは、奈良のメーカーである株式会社アクラムさん(チームウェアブランド「SQUADRA/スクアドラ」)がつくってくれています。

もうひとつのチームカラーが「ターコイズブルー」で、トルコ石の色。この2色は、シルクロードの始点と終点を表しています。奈良の文化は、シルクロードから入ってきていますから。長い道のりであるシルクロードとマラソンという競技も、イメージが重なります。

奈良のスポーツチーム同士が横につながる。そして世界へ

──

合同会社NARA-Xアスリーツでは、奈良の地域情報サイト「まいぷれ奈良」も運営されています。地域情報サイトと陸上競技とどんな繋がりがあるのでしょうか。

陸上はユニフォームに企業名を事実上1社しか入れられません。そして、そこには選手を雇っていただいた会社の社名が入ります。でもチームとしても運営資金確保のためにスポンサーを集めなければなりません。

「まいぷれ」は、地域に密着した情報を地域住民の方々にお届けすることがコンセプトの地域情報サイトで、飲食店サイトの「ぐるなび」の全業種版のようなものです。県内の企業に対して「NARA-Xのスポンサーになっていただけると『まいぷれ』に広告を出せますよ」と呼びかけることができます。また、ユニフォームや競技大会のゼッケン・看板広告に出せるのは社名や企業ロゴだけですが、「まいぷれ」であれば、ウェブサイト上で自社の技術や店舗情報などを詳しく紹介することができます。


「まいぷれ」やNARA-XアスリーツのSNSで、スポンサー企業のSNS投稿をリポストすることもできますし、逆にスポンサー企業のSNSでNARA-Xの活躍をリポストすることで、スポンサーであることをアピールすることもできます。
「相互に随時情報発信できた方が面白くないですか」と企業に言うために「まいぷれ」を運営しています。地域の産業を掘り起こすひとつの手段として、スポーツとの連携があると考えています。

──

合同会社NARA-Xアスリーツの目標として「2023年度単年度黒字化」をかかげていますが、これはスポンサー収入のみでチームの運営をまかなうかたちを目指されているのでしょうか。

はい。各選手には所属の企業が給与を払ってくれていますし、練習場所は、橿原公苑陸上競技場のように無料で使わせてもらえる施設もあります。

それ以外の運営費は、何社かついていただいているスポンサーからの収入と、現状、足りない分は私の行政書士事務所から補填しています。その意味では、事務所に行政書士としての業務を頼んでくれた企業も、間接的なスポンサーになっていただいていることに気づいたので、逆に最近では行政書士事務所にお問い合わせいただいた企業に「行政書士の業務を頼んでくれた会社は、NARA-Xのスポンサーになれますよ」という提案もしています。

橿原公苑陸上競技場


子供たちを対象としたスポーツ教室や単発のイベントも行っています。

月4回、木曜日に九条スポーツセンターで実施している「九条かけっこクラブ」は月会費をいただいて、児童がスポーツを始めるきっかけづくりや運動を楽しむことを目指しています。大会に出ることを目的とはしていませんが、そこで学んだ子供たちが、やがてチームに上がってきてくれたらうれしいですね。

またチームの地元密着を体現するために、地元のカフェとコラボして、ファンの方々と給水ボトルを一緒につくるイベントを実施しました。今後は奈良の文化や地場産業とランニングを組み合わせたイベントも積極的に企画していきます。奈良というブランドを発信できるのであれば、文化とスポーツを分ける必要はないと考えています。


小学生の陸上と少年サッカーを同日同会場にて開催

──

選手をサポートし、奈良ブランドをアピールするために、実に幅広い活動をされていらっしゃいます。あとは大歳監督の体力がどこまで続くか、というところですね。

結構、体力的には限界です。ただ、今年はチームに2人もマネージャーが入ってきてくれました。情報発信が得意なマネージャーと、競技指導のできるマネージャーです。今年は時間をかけて一緒に体制をつくっていきます。彼らは入部の際に「ボランティアでいいからやりたい」と言ってくれました。これもNARA-Xの知名度が徐々に上がってきた成果のひとつだと感じています。

──

最後に、今までNARA-Xアスリーツを運営してきて、一番うれしかったことを教えてください。

数年前までは「選手の親や友達以外がチームの応援に来るのはまずあり得ない」という状況でしたが、今、それが起き始めています。

昨年(2022年)、サッカーの「奈良クラブ」がJリーグに昇格しました。これまで、チームのメンバーと「奈良クラブ」の応援に出かけたり、陸上のイベントを一緒にやらせていただいたり、NARA-Xの選手が出場する大会のときに声をかけたり、いろいろやってきました。またプロバスケットボール(Bリーグ)の「バンビシャス奈良」の試合にも応援に行きました。とても忙しかったですが、やっていて良かったのは、そこで知り合ったそれぞれのチームのファンの方々が、NARA-Xの応援にもいらっしゃってくれるようになったことです。


「バンビシャス奈良」チームキャラクター 「シカッチェ」と一緒に応援

バスツアーでNARA-Xを応援


今年2月の大阪国際女子マラソンには100人近くが来てくれましたし、5月の関西実業団選手権では、競技会場の鳴門までバスツアーを企画したのですが、現地に直接来てくれた方と合わせて30人ぐらいが応援してくれました。「リアルで、生で、人が来るんだ」と感動しました。奈良のスポーツチーム同士が横に繋がりつつありますが、これができるのも、奈良という地域の規模感がちょうどいいからなのかもしれません。

陸上競技を観たことがなかった他のスポーツのサポーターの方々も、例えば、大会に2019年の世界陸上でメダリストとなった多田修平選手などの有名選手が出場しているので、「こんな間近で世界レベルの選手が観られるのか」と驚いていました。そしてそのような大会に、NARA-Xの普段フルタイムで企業に勤務している選手が勝負しに行っている姿に感銘を受け、応援してくれています。選手たちも応援の声が大きくなっているのを聞いて、奈良で、日本で、そして世界でますます頑張れる、そんないい循環になりつつあるのが、一番うれしいです。

──

これからのNARA-Xアスリーツの活躍が楽しみです。ありがとうございました。

2023年7月の売木村合宿にて。みんなでNARA-Xの「N」
(Facebookより)

大歳 研悟

大歳 研悟(おおとし けんご)

合同会社NARA-Xアスリーツ 監督 兼 社長。おおとし行政書士事務所 所長。
1976年生まれ。上宮高校・同志社大学卒業。主な経歴(陸上競技)は、同志社大学 陸上競技部 主務(1998~1999)、同志社大学 長距離コーチ(2007~2019)、関西実業団駅伝 奈良選抜監督(2010~2020)。
趣味は、お城巡り、鉄道模型、歴史系の読書。

LINE公式アカウント

お気軽にLINEの友だちに追加ください。
ただいま友だち追加の限定特典として「ナララボ編集長のここだけで聴ける音声配信」をお届けしています。

LINE 友だち追加

^