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奈良ならではの食体験をチームで実現

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本杉 裕子

本杉 裕子

奈良県は「ガストロノミーツーリズム」、すなわち「美食体験の旅」に非常に力を入れています。2016年には、地産地消を体現する農業と調理のプロを育成する目的で、県立の「なら食と農の魅力創造国際大学校」まで設立しています。
桜井市にある広大な農場を持つキャンパスの中に併設されているのが、宿泊のできるレストランである「オーベルジュ・ド・ぷれざんす 桜井」です。レストラン・ホテルなどの経営をおこなう東証上場の株式会社ひらまつが運営し、「ミシュランガイド 奈良 2023」でも星付きレストランとして紹介されています。

大和野菜や大和牛をはじめとする奈良の食材をふんだんにつかった料理と、フランスワインや奈良の蔵元からの希少な日本酒のマリアージュを堪能できる「オーベルジュ・ド・ぷれざんす 桜井」。そこで働く奈良県ご出身のソムリエ、本杉 裕子(もとすぎ ゆうこ)さんに、奈良ならではの食の体験を提供する喜びや日々ご尽力されていることについて、じっくりお話をうかがいました。

CONTENTS

奈良の城下町に生まれ、奈良のホテルでソムリエのキャリアを積む

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奈良県宇陀市のご出身で、今でも奈良県のオーベルジュで働かれています。なぜ奈良の宿泊施設で働き、ソムリエになることを選ばれたのですか。

ホテル業界を目指すようになったのは、生い立ちが関係していると思います。
私は、宇陀市は大宇陀、宇陀松山の古くからの城下町の集落で、代々、大工道具を扱う職人の家に生まれました。 幼いころからお店に親しみ、物心ついた頃には応対や電話の取次ぎなど覚え、お客様からも可愛がっていただいていました。その頃のお客様が、こちらのオーベルジュを訪ねて来られることもあります。

大阪の大学を卒業し、ご縁があって名古屋の老舗ホテルで約2年働きました。そちらではクラッシックなフレンチレストランにて勤務、最初はお客様とも話せない裏方の仕事に徹する中で、黒服でスマートにワインをお勧めする先輩方に憧れ、自分もそうなりたいと思うようになりました。

その後、知人からの声掛けもあって、地元奈良に戻ってきて、橿原市のホテルに勤務しました。一度離れたことで奈良の良さを再認識し、生まれ育った地で働き続けたいと思うようになりました。

重要伝統的建造物群保存地区 宇陀松山の街並み

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奈良のホテルで働かれるようになって、名古屋のホテルとはどんなところが違いましたか。

名古屋のホテルはシティホテルで、仕事で来られている方も多かったですが、奈良のホテルは観光で来られている方が多く、食事にしても「奈良ならでは」のものを求めて来られているというところが違いました。

それで、奈良の食材についても、奈良で働くようになって勉強しました。
子供の頃に普段食べていたものが、名古屋では見かけることがなく、初めて大和野菜の存在を意識しました。
例えば宇陀の金牛蒡(きんごぼう)についても、あれだけ大きくて柔らかい牛蒡はなかなかないのですが、名古屋で一人暮らしを始めて、買い物に行って「牛蒡ってこんなに細いんだ」と驚いたりしました。また、ほうれん草についても、宇陀は標高が高いので、真冬に体を守るために糖度が高くなって甘味が出るのですが、全く味が違いました。

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大和野菜は高原野菜のイメージなのでしょうか。

そういう面もあるかもしれません。宇陀では、ベリー系のフルーツなども作られています。お米よりも野菜をつくられている農家さんが多いのではないでしょうか。

ワインについても本格的に勉強を進めて、日本ソムリエ協会のソムリエ資格を取得しました。またスペインのシェリー原産地呼称統制委員会が認定する公式資格「ベネンシアドール」も取得しましたが、奈良県で初めての資格取得者です。
橿原市のホテルには14年ほど勤めまして、レストランでソムリエ、店長、そして営業職、フロントとさまざまな経験をさせていただきました。

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こちらのオーベルジュにはいつからお勤めでしょうか。

2023年4月からです。

地産地消の食体験を提供するチームの一員として

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オーベルジュで働かれるのは、ホテルやレストランで働かれていたときとは、どんなところが異なるのでしょうか。

オーベルジュは「泊まることのできるレストラン」です。こちらのオーベルジュは9部屋で、スタッフの人数も限られているので、レストランでのサービス以外も基本的になんでもやります。チェックインもチェックアウトもやります。

こちらに入社するときに、自分としては、名古屋や橿原のホテルでのいろいろな部署での経験が全て活かせて、なんだかやっとここにたどり着けた感じがしました。

お客様は、レストランだと2、3時間で帰られますが、オーベルジュには10数時間滞在していただけます。
長くお客様と接することができるのは、とても魅力でした。ひとりひとりのお客様へのサービスにかける時間を長くとれるので、自分の理想と近いところにやっと来られたな、と感じています。最初はプレッシャーでしたが、最近は少しずつ、お客様に合わせてサービスすることができるようになってきました。

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お客様はどのようなことを期待されて訪問されるのでしょうか。

ご来館されるお客様は、奈良の食材をふんだんに使った小林シェフ(料理長 小林達也氏)の料理を楽しむ事を目的に、オーベルジュならではの手厚いスタッフのおもてなしや、自然豊かな環境でゆったりとくつろぐことを期待されていると思います。

チェックインの際にウェルカムドリンクをご用意しているので、そのときの会話で、お客様がどのような目的で来られているのか、食事についてのお考え、体調などを知るためにコミュニケーションをとるようにしています。
ウェルカムドリンクは基本ノンアルコールなのですが、そのときに「アルコールはありますか」と聞かれるお客様であれば、「お酒がお好きなんだな」とわかって、その後のディナーの際にもお酒の情報を積極的に提供するようにします。

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お客様に長く接するソムリエとして、地産地消の食体験を提供されているこちらのオーベルジュで働くときに、心がけていらっしゃることはありますか。

奈良県の食材や、料理についての知識を深めることを意識しています。同じ食材でも、そのときによってつくられている場所が変わったり、品種が変わったりすることもあるので、常にアンテナを張っています。

例えば、食前酒の一種として、「季節のスパークリング・カクテル(アルコールもしくはノンアルコール)」をお出ししているのですが、自分たちで橿原市の「まほろばキッチン(奈良県農業協同組合が運営する直売所。全国最大級の面積を持ち、1,000名を超える登録農家により新鮮な旬の農産物が揃う)」に出向いて、旬の食材を仕入れて、オリジナルのカクテルをつくっています。

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どこかから仕入れたものではなくて、ご自身で一からつくるのですか。

ワインやお酒を自分たちでつくるわけではありませんが、カクテルのベースとなる部分は自分たちでつくっています。秋であれば、旬を迎えたリンゴを使おうと素材を決めて、リンゴを加工して、シェフと支配人(鈴木政徳氏)のOKが出るまで、何度も作り直します。食前酒は、最初にお客様がめしあがるものなので、シェフは、料理のコースの全体の流れで違和感がないものかどうかチェックします。

最初はリンゴとシナモンだけで作ったのですが、味わいが薄かったので、濃くするのに結構手間がかかりました。奈良県産の別の品種のリンゴを使ったり、焼きリンゴ風に加工して水分を抜いて味を濃縮させて糖度を上げたり、新生姜を加えたり、味わいを予想しながらつくっていきます。

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年に何回ぐらいそのようなオリジナルのフルーツカクテルをつくられるのですか。

春夏秋冬ごとに1回ずつ、というかたちではなくて、直売所にそのフルーツが出なくなれば、また新しいものに切り替えます。
規模の大きいホテルなどでしたら「何月何日まではこのカクテルを出します」と決めて、メニューも印刷されていて、というかたちかもしれませんが、農作物は自然のものなので、常にそのときに一番旬の奈良県産のフルーツを使います。私が入社した昨年4月以降だけでも、すでに6種類ほど提供いたしました。

料理も同様で、使う野菜も全て、「熟す前に収穫してスーパーに送られて」といったものではなく、地元の農家で完熟するまで育ったものを朝収穫して、直売所に出荷されたものを買い付け、その日中に調理してお出しします。これは流通経路が長くなる都会ではなかなかできないことです。

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ソムリエだから、という役割が固定されているわけではなく、チェックインからお客様と長く接して、支配人やシェフとも協同しながら、チームで「地産地消」の体験をご提供されているのですね。

飲み物、特に酒類は嗜好品ですので、自分の考えや感覚だけでなく、自分以外の人がどう感じているのかを興味を持って聞くように心がけています。接客中にお客様との会話の中で、お好みや感じ方を探ることはもちろんですが、サービススタッフや、シェフをはじめ調理スタッフとも、料理とお酒の相性について話すこともとても大事だと思っています。

蔵出しのワインと奈良の日本酒、そしてフランス料理が一体となった唯一無二の食体験

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レストランではフランス料理を提供されています。メニューを拝見すると、ワインだけではなく、奈良の日本酒や他のお酒など幅広く提供されていますが、ワインと日本酒を同時におすすめするのは難しくありませんか。

それほど難しくありません。お客様がお選びになるのも、日本酒とワインと半々ぐらいだったりします。奈良に来ているのだから、奈良でしか飲めない地酒を、というお客様もかなりの数いらっしゃいます。

小林シェフが創り出す料理は、奈良の旬の食材と、伝統的なフランス料理の技、和のニュアンスが掛け合わされて生まれる唯一無二のフランス料理です。地元の食材が目の前にあって、それをどう美味しく料理しようか、当館らしく出せるか、というのが基本の考え方です。
例えば、フランス料理ではスタンダードな鴨料理でも、付け合わせの大和丸茄子が旬で滋味深く、そちらが実質的にメインとなったりすることもあります。逆に奈良で伝統的な「飛鳥鍋」をアレンジしてコースに入れることもあります。お出汁や味噌を取り入れるなど、日本酒が合いやすい料理もあるので逆にワインのみのペアリングの方が難しい場合もあります。

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現在、ご提供されているワインはどのようなものなのでしょうか。

私ども、株式会社ひらまつでは自社で輸入を行っています。フランスまで行き、ぶどう畑をまわって、生産者と直接話した上で仕入れる、いわゆる「蔵出し」のワインです。日本に届いたら、それをすぐ横浜の定温定湿倉庫で保管して、それを全国のひらまつのレストランやホテルに配送します。ワインにとっては移動が一番のダメージなので、移動距離も最低限に抑え、最良の管理のもと、お客様に提供しています。

ワインについては、トレンドも含めた情報収集が重要だと考えており、食材や料理が変わるタイミングでワインのラインナップも変えています。いつお越しになられても、お食事と共に多様なワインを楽しんでいただけると思います。

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奈良の日本酒の特色はどんなところにありますか。

奈良は「日本酒の発祥の地」と言われていて、酒蔵も実は非常に多くあります。
原料となる酒米(酒造好適米)として、奈良県には「露葉風(つゆはかぜ)」という県内でのみ生産されている品種があり、甘味があって美味しい日本酒がつくられます。
その他にもさまざまな味わいを持つ地酒があり、季節感も大切に、料理との相性も考えて、そのときに一番美味しく飲んでいただけるものを厳選しておすすめしています。

先ほどお話しした冬場の温かい飛鳥鍋には、搾りたてのどぶろくなどもお出ししますし、旨味のある大和野菜だったら、純米大吟醸。味噌のソースにも合います。

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どのようなお酒をおすすめするか、工夫のしがいがありますね。

はい。お客様からオーダーをいただいた際には、ワインと日本酒など、苦手な飲み合わせがないか事前に必ずうかがうようにしています。料理とお酒のペアリングコースもあるのですが、ワインばかりなのか、日本酒を組み込んでもいいのか、1杯あたり、どのくらいの量をお飲みになるのか、その飲み合わせはお客様ご本人しかわかりません。お客様のご希望や体質、また旅先で少し疲れていらっしゃる場合もあります。普段飲んでいるお酒を飲みたいのか、違うのを飲みたいのか、ニーズを会話の中で見極めてからおすすめします。また2回目、3回目のご訪問の場合は前回お飲みになったものの記録を残しているので、そちらも考慮に入れます。

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そこまで考えて、複数のテーブルで、複数のお客様相手にサービスするのは大変ではないでしょうか。

だんだんとタイミングがわかってきました。「あちらのテーブルのお客様はそろそろお料理を食べ終わられるので、ドリンクの追加も伺おう」と、自然と身体が動くようになってきました。お客様が野菜のオードブルを召し上がられているか、もうお肉に差しかかっているのか、コースの進み具合によっても、おすすめするお酒は変わります。

実際に作っている料理人の思いまで届けたい、というのがソムリエの根本にあります。自分たちでは何も作れない職種かもしれませんが、ワインも日本酒もそうですし、料理もそうですし、作り手の思いを、自分なりに解釈して、それをお客様に伝えるのが仕事だと考えています。

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最後に、本杉様が思う、奈良や桜井市の良いところ、「オーベルジュ・ド・ぷれざんす 桜井」の素晴らしさをお聞かせください。

やはりレストランなので、料理ありきだと思います。そして料理を取り巻く全てを味わっていただけるのが、このオーベルジュです。環境、自然もそうですし、お料理に合わせるお酒もそうです。

桜井は歴史的に「日本という国が始まった場所」で、今も昔と変わらない美しい里山の景色を眺めながら、ゆったりと時間を過ごすことができます。どこから来られた方も「なにか懐かしい感じがしてホッとします」とおっしゃっていただけます。

小さなオーベルジュですが、本当に「ここにしかない」という要素がつまっています。ぜひお越しください。

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「オーベルジュ・ド・ぷれざんす 桜井」が実践されている「スモール・アンド・ラグジュアリー」という、大人数のお客様を一度にお迎えするというスタイルではなく、小さいけれども質を上げていく、というのは奈良全体の観光から考えても、魅力を伝えるためのひとつのやり方なのかもしれません。
再訪するのを私も楽しみにしています。これからもますますのご活躍をお祈りしています。

本杉 裕子

本杉 裕子(もとすぎ ゆうこ)

奈良県宇陀市で生まれ育つ。
大学在学中にホテル業界を志すようになり、縁あって名古屋の老舗ホテルに就職。フレンチレストランに配属され、ワインに興味を持つようになる。知人の紹介でダイワリゾート株式会社に入社、THE KASHIHARA(旧橿原ロイヤルホテル)、フレンチレストラン、中国レストランにて勤務。

2010年 日本ソムリエ協会 ソムリエ呼称資格取得。シェリー酒に魅せられ、2017年 奈良県初のシェリー原産地呼称統制委員会 ベネンシアドール認定。

2023年4月、株式会社ひらまつに入社。「オーベルジュ・ド・ぷれざんす 桜井」にて勤務。

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