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伊藤 卓巳
昨年(2022年)、奈良市は中央アジアのウズベキスタンにあるサマルカンド市と姉妹都市提携を結びました。奈良とは遥かシルクロードでつながり、美しいイスラム建築から「青の都」と呼ばれ、世界遺産にも登録されるサマルカンド。伊藤卓巳(いとうたくみ)さんは、この地でJICA海外協力隊の観光隊員として活躍されています。
「古都の魅力を世界に発信する」という奈良とも共通する観光課題に日々取り組む伊藤さんに、サマルカンドに赴任された経緯やサマルカンドでの暮らしぶりをうかがいました。
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サマルカンドの一言観光案内
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伊藤さんのお話をうかがう前に、駐在されているウズベキスタンのサマルカンドについて、少しだけ観光案内していただけますか?
サマルカンドの歴史はとてつもなく古く、紀元前10世紀頃からオアシス都市として発展してきました。シルクロードの要衝として栄えましたが、13世紀にモンゴル軍の攻撃を受けほぼ壊滅状態に。その後この街を見事に蘇らせたのが、14世紀に生まれた英雄ティムールです。彼は広大な帝国を築きあげましたが、サマルカンドはその都となりました。ティムールが築いた巨大なモスクや、ティムール一族が葬られている霊廟は貴重な世界遺産となっています。これらのイスラム建築は、鮮やかな青色ときめ細かいタイル装飾が印象的で、その美しさに惹きつけられること必至です。
サマルカンドの人気スポット、シャーヒズィンダ廟群の伊藤さん。青のタイル装飾が鮮やかです。
ウズベキスタンは19世紀にはロシア領となり、一時はウズベク・ソビエト社会主義共和国の首都でしたが、1991年ソビエト連邦の解体に伴い主権国家として独立しました。2016年のミルジヨエフ大統領就任後は経済改革も進み、2018年には日本からの30日間のビザなし渡航を導入するなど日本との関係も良好です。 2023年4月現在、成田から週1便、ウズベキスタン航空の直行便が首都のタシケントに飛んでいます。ソウル経由の大韓航空やアシアナ航空であればさらに本数が多く便利です。タシケントからサマルカンドへは、列車で最短約2時間半の距離です。
レギスタン広場内の民族楽器店。伊藤さんは民族楽器のひとつ、ドゥタールの演奏がお得意とのこと。
他にも食料品やアンティークを扱う巨大なバザールなど、ショッピングも楽しそうです。
サマルカンドとの縁
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学生時代に、バックパッカーでウズベキスタンに最初に行かれたのですね。
はい。大学では国際関係学を勉強していて、海外には興味がありました。最初に行った外国は韓国でした。次は日本とは全く違う国に行きたいと考えていたのですが、大学の図書館にウズベキスタンの本があり、景色がとてもきれいで、行ってみたいと思いました。
それで、20歳のときにウズベキスタンに1週間行ったのですが、全てが強烈な国で強い印象を受けました。その後、中央アジアの各国もバックパッカーでまわりました。現在はウズベキスタンを観光に訪れるのにはビザは不要なのですが、当時は日本でビザを取得してから行きました。
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卒業されてからも、ウズベキスタンとの繋がりはあったのですか。
新卒でファイブスタークラブという旅行会社に就職しました。世界の辺境や秘境へのツアーを得意としている会社だったのですが、そこで中央アジアへのツアーの企画や販売を行っていました。
新卒5年目ぐらいのときにJICA(独立行政法人国際協力機構)の海外協力隊の広告が目に入って、「観光」という職種があることを知り、「海外に住みたい」という気持ちもあったので応募してみました。
そのときに応募があった国のうち、ウズベキスタンは第3希望で出していたのですが、採用が決まりました。
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第3希望だったのですね。それも縁ですね。ちなみに他にはどの国を希望していたのですか。
第1希望がジャマイカで、第2希望は中南米のエルサルバドルでした。ジャマイカはなんだか楽しそうだったので。
ウズベキスタンのサマルカンドには、2019年12月に赴任しました。
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赴任早々、2020年にコロナ禍にみまわれたわけですね...
海外協力隊は一斉帰国することになってしまいました。実は、その後入籍した妻がロシアでの勤務経験があり、「いずれウズベキスタンに再赴任するなら、自分も一緒に住めないだろうか」と、ウズベキスタンの首都タシケントでの駐在の仕事を見つけてきました。そこでサマルカンドへの再赴任までの10ヶ月間、タシケントで主夫生活を送ることになりました。妻にはとても感謝しています。
タシケントの地下鉄駅構内
学生たちとサマルカンドの魅力を世界に発信
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現在のサマルカンドでのお仕事はいつから始められたのですか。
2022年11月からです。海外協力隊としての正式な配属先は、サマルカンド経済サービス大学でここには観光学部があります。講師として観光学を教えています。内容は、旅行会社での勤務経験や、外国人から見たウズベキスタンのツーリズムの印象や課題を話しています。また大学が、観光学や外国語を学ぶ学生の実習先として運営している観光案内所にも勤務しています。日本語を学ぶ学生もいます。
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伊藤さんから見たウズベキスタンのツーリズムの印象や課題というのは、どういうところですか。
ウズベキスタンには観光資源がそろっていて、世界文化遺産の都市だけでも、サマルカンド、ブハラ、ヒワ、シャフリサブスの4つあり、イスラム建築も素晴らしいものがあります。ただ、観光客が増え始めたのが最近で、ハード面で設備が追いついていない面があります。鉄道網はかなり整備されていますが、すぐ定員で埋まってしまうので切符が取りにくい状況です。その他の交通手段としてはバスや乗り合いタクシーがありますが、旅行者向けの情報が少なく、旅行者が移動するときに困ってしまうことが課題です。
もうひとつは、外国人旅行者が求めているものと、ウズベキスタン当局として見せたいものの相違があります。当局としては、きれいなものだけを見せたいとして近代的に設備が整っている部分だけを見せたいようですが、旅行者としては点で見るというよりは面で見たいので、旧市街を散策したり、市場を訪問したりと考えている人も多いです。
世界遺産のシャフリサブスでは、歴史建築以外の昔からの街並みを全て更地にして公園にしてしまったことで、ユネスコ世界遺産委員会から過度な観光開発が問題視され、危機遺産リストに加えられてしまいました。ただこれも、現地住民にとっては街がきれいに便利になっていくのはいいことで、外国人が観光という視点でのみ判断していいのか難しい問題ではあります。
サマルカンド経済サービス大学の学生たちと
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「takumiの世界ふらふら街歩き」ブログや「地球の歩き方」ウェブサイトでの記事執筆など、頻繁に更新されていて素晴らしいのですが、ブログを書かれるのは好きなのですか(各サイトのURLは本記事最後に記載)。
大学でバックパッカーをしていたときに、旅行記録を残したいとブログを始めました。バックパッカー時代には、他の方のブログなどの旅行情報に大変お世話になったので、自分が書くことで旅行者に還元できないかと思っているのが、続けている理由なのかもしれません。
ウズベキスタンについても、日本語での情報が少ないというのはよく言われます。読む方がどんな情報を求めているのかがわからないので、できるだけ幅広い情報を取りあげることを意識しています。歴史的なイスラム建築を観に訪れる方が多いと思いますが、先日は鉄道の写真だけを撮りにいらっしゃった方がいました。今はまだ団体客は戻っていないですが、バックパッカーの方で、ウズベキスタンからカザフスタン、カスピ海を渡ってアゼルバイジャンに行く面白いルートを通っていこうとされている方もいました。
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なるほどウズベキスタンを訪れるにも、いろいろな理由があるのですね。
私はサッカー観戦が好きなので、観戦日記も時々書いています。ウズベキスタンでも日本戦があることがあり、2022年には「U23アジアカップ(アジアサッカー連盟主催の23歳以下の選手による各国ナショナルチーム対抗戦)」、2023年には「U20アジアカップ」が行われたので観戦しました。
また、実はウズベキスタンのサッカー女子代表チームの監督とコーチは日本人です(監督は本田美登里氏、コーチに堤喬也氏)。ボランティアで、監督やコーチと、チームメンバーや現地スタッフとのウズベク語の通訳の仕事にかかわりました。サッカーを通じた日本とウズベキスタンとの絆があります。
サッカー女子代表チームと伊藤さん。中央アジア大会でウズベキスタンが優勝した際、選手たちがメダルを持たせてくれました。
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観光案内所ではインスタグラムとフェイスブックを展開されています。
これらは観光案内所の広報のためのもので、学生たちにSNSマーケティングを教える目的もあります。まだこれからといったところですが、反応があれば彼らもやり応えがあると思うので、いろいろと教えたいです。
近いうちにYouTubeもやりたいです。ウズベキスタンでもYouTuberは人気の職業なので、やりたい学生も多いと思います。
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2022年10月、奈良市はサマルカンド市と姉妹都市提携を結びました。今後、奈良市と一緒にこんなことができれば、という希望はありますか。
今、東京外国語大学から、定期的にスタディツアーを受け入れて学生交流を行っています。つい先月も実施されたばかりですが、単なる観光だけではなく、ローカルの民家に行って料理やダンスをしたり、学生同士の交流もあり、意義深いものでした。奈良や関西の大学でも、例えばウズベキスタンに2週間滞在して観光学やウズベク語・ロシア語を学ぶようなスタディツアーを行いたいところがあれば、ご相談にのりたいです。
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サマルカンドの学生も、日本の学生と交流することで得られるものも多いでしょうね。
コロナ前だと、日本語を学ぶ学生が、自主的に日本人の観光客に無料でガイドするなど積極的な行動をとることもありましたが、コロナ禍があり、アグレッシブな学生も減ってきた印象でした。
ただ、最近、日本の観光客が少しずつ増えて、観光案内所を訪れる方に学生が日本語で案内したりする中で、「日本語をもっと話したい」と言ってくる学生が増えてきました。学生の成長を身をもって経験できるのはいいところです。コロナ禍になってから入学してきて日本人と話したことのない学生がほとんどなので、日本人と話すことがモチベーションになっているようです。彼らは日本の漫画が好きだったり、日本車に憧れたり、昔のNHKのドラマの「おしん」を観て日本に興味を持ったりなどいろいろな理由で、日本語を学んでいます。先日はバザールツアーの練習として日本人の観光客の方を学生一同でご案内したのですが、その後、学生のひとりが「言いたいことが全然言えなくて、恥ずかしいです」とスクールウォーズばりに悔しがっていました。その悔しさが彼らの成長につながるのだと思います。
これからぜひ大学のスタディツアーや観光で、サマルカンドを訪れて、学生たちの話し相手になってもらえるとうれしいです。
観光案内所前で。学生さんたちの笑顔がいいですね。
伊藤 卓巳(いとう たくみ)
三重県紀北町出身。神戸市外国語大学卒業。
5年間の社会人生活を経て、2019年12月よりウズベキスタン・サマルカンドにJICA青年海外協力隊の観光隊員として赴任。コロナ禍による一時帰国を経て、2022年11月から活動再開、2年半ぶりにサマルカンドへ帰還。現地のサマルカンド経済サービス大学観光学部と観光案内所にて勤務。
好きなウズベク料理はシャシリクとラグマン。趣味はサッカー観戦、民族料理探訪、ドゥタール(ウズベキスタン民族楽器)。
関連URL:
takumiの世界ふらふら街歩き(副題:サマルカンドでお待ちしてます。)
https://furafuramachiaruki.blog.fc2.com/
地球の歩き方web 伊藤 卓巳のページ
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スタン系男子@サマルカンド観光案内所
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ご夫婦のサマルカンドでのフォトセッション
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