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大和当帰の花が咲く里山での地域おこし

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久保田 勝典

久保田 勝典

奈良に平城京が開かれた710年より更にさかのぼること100年、「日本書紀」に推古19年(611年)に「薬猟(くすりがり)」をおこなった記録の残る奈良県宇陀市。「薬猟」とは、鹿狩りをして、薬効が知られていた鹿の角をとったり、薬草を採取したりする当時の宮廷行事です。

時代は下り、江戸時代に交通の要所として栄えた重要伝統的建造物群保存地区に選定されている宇陀松山には薬草園の「森野旧薬園」が残り、現在でも薬草文化を今に伝える方々が活躍しています。「薬草のまち」宇陀を支えるひとり、宇陀市地域おこし協力隊の久保田 勝典(くぼた まさのり)さんに「うだ 薬湯の宿 やたきや」でお話をうかがいました。

CONTENTS

「うだ 薬湯の宿 やたきや」内部(Instagramより)

「薬草のまち」で大和当帰(やまととうき)栽培に挑戦

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宇陀市には、奈良県外から移られていらっしゃったのでしょうか。

三重県名張市で働いていました。生まれてから高校までも名張で、大学は大阪でしたが、卒業後は三重県の自動車ディーラーで整備の仕事をしていました。

祖父母が宇陀市の室生の人間で、小さい頃、よく親父に山に連れて行ってもらいました。その記憶が残っていて、自動車業界の仕事を辞めた後、林業体験をしたり、そこで出会った人たちと、木育(もくいく。子供たちに木に対する親しみや理解を深める)活動をおこなったりしていました。そんなときに、遠戚の田中 正巳(たなか まさみ)さんから「今度、宇陀で新しい古民家再生事業を始めるので、一緒にやりませんか」と声をかけていただきました。

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田中さんは、一般社団法人なつかしいみらいクリエイター認定協会の代表で、今久保田さんに話をうかがっているこの場所、古民家を改装した宿泊施設兼レストラン「うだ 薬湯の宿 やたきや」を運営されている方ですね。
敷地内の薬草畑で久保田さんが育てている大和当帰(やまととうき)を、先ほど拝見させていただきました。白い小さな花が美しかったです。元々、薬草には興味があったのでしょうか。

子供の頃から植物を育てることには興味はあり、いずれは野菜などもつくってみたいとは思っていました。ただ田中さんから、この「やたきや」の敷地で、「やたきや」がオープンする前から「畑をつくって薬草を育てたい」という話を聞いて、意外に感じたのは事実です。

それが2019年頃の話だったのですが、2012年の薬事法改正で、今まで大和当帰は根の部分のみ漢方薬に利用されてきた(冷え性、血行障害等、主に婦人科系疾患に効果があると言われる)のですが、葉の食用化が可能となりました。宇陀市としても葉を利用した市場の増加を見込んで、「薬草のまち」宇陀の特産品として力を入れていきたいという動きがあり、それであれば、大和当帰の栽培をやってみようかと決意しました。

大和当帰の花

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初めての薬草栽培でご苦労はなかったですか。

最初は独学で情報を集めていましたが、そのうち、知り合いができて教えてもらえるようになりました。ただ化学肥料や農薬を一切使っていないため、虫や動物には悩まされています。鹿や猪対策には、電線を張った電気柵を設置しているのですが、先日はもぐらに荒らされてしまいました。

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もぐらは地中から来ますから、地上の電気柵は役に立たないのですね。

もぐらはミミズなどの動物性のものを食べるので、直接、薬草に被害はないのですが、そのもぐらが通った穴に、植物性のものを食べる野ねずみが入り込んで、薬草の根をかじって、ダメにしてしまったのです。
薬草が枯れてきた当初は原因がわからなかったのですが、土がボコっと凹んで、まわりの畑も土を押さえると、どんどん凹んできて、最終的にはそのときに栽培していた薬草の5分の4をダメにしてしまいました。

薬草栽培を始めてまもなく、宇陀市が「地域おこし協力隊」の薬草担当を募集していることを知り、応募したところ採用が決まりました。「地域おこし協力隊」の業務を始めてからも、活動の一環で「やたきや」の薬草畑の管理は続けています。

NHKで世界に届けられた「森野旧薬園」の薬草文化

地域おこし協力隊

都市地域から過疎地域等の条件不利地域に住民票を異動し、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR等の地域おこし支援や、農林水産業への従事、住民支援などの「地域協力活動」を行いながら、その地域への定住・定着を図る取組です。協力隊の隊員は各自治体の委嘱を受け、任期はおおむね1年から3年です。

令和5年度で7,200名の隊員が全国で活動していますが、地方への新たな人の流れを創出するため、総務省ではこの隊員数を令和8年度までに10,000人とする目標を掲げており、目標の達成に向けて地域おこし協力隊の取組を更に推進することとしています。

(出典:総務省ウェブサイト)

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地域おこし協力隊では、どのようなお仕事をされているのですか。

主に「宇陀市薬草協議会」の仕事をおこなっています。市内90件余りの大和当帰の栽培者(うち10数件が栽培出荷)をとりまとめて、苗のあっせん、収穫した大和当帰の乾燥・調製・問屋への出荷が、協議会の担当業務です。入浴剤や加工食品の原料としての利用など、葉の需要拡大の研究や、関連商品を販売してくれる店舗への紹介なども進めています。

地域おこし協力隊になってまもなく、同時の上司に連れられて森野旧薬園にうかがいました。

森野旧薬園

室町時代に創業し、吉野葛のくず粉製造の会社を経営していた森野家当主(当時)の森野通貞氏が、江戸時代中期、享保年間に、自宅の裏山に開いた日本最古の私設薬草園です。
江戸時代の面影をそのまま残す希少な薬園であることから、大正15年(1926年)に国の文化財史跡に指定されました。約600平方メートルの山肌に250種類以上の薬草木が生育しており、四季折々に来園者の目を楽しませています。

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先日、NHKで放映されたドキュメンタリー番組「薬草歳時記」の舞台が森野旧薬園で、久保田さんも映っていました。

森野旧薬園では、薬草栽培管理者の原野 悦郎(はらの えつろう)さんを紹介してもらいました。原野さんは、もう90歳を超える年齢の方ですが、ご夫婦で元気に薬草園の手入れをされています。

伝統のある薬草園ですので、ぜひなにかお手伝いをしたいと申し出たところ、快くご了解いただきました。他の協力隊の業務もあるので、今は週に一度うかがうペースですが、原野さんご自身の手が回らない高いところでの作業など、的確にご指示いただいて働いています。

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NHKでの番組制作はどのようなきっかけだったのですか。

ある日、私の携帯にNHKの番組制作ディレクターから直接問い合わせがあって、驚きました。最初はNHK WORLD(NHKが衛星放送、インターネットを通じて、多言語で世界に向けて情報を発信しているサービス)での番組を制作したいとのことでした。

そのうち、地上波での日本語の番組放映も決まり、最初は1番組の予定でしたが、「森野旧薬園」の春・夏の様子を取り上げた番組が好評で、「秋・冬編」も制作、放映されました。
(NHK「薬草歳時記」 2023年9月29日放送。「薬草歳時記 秋・冬」 2024年5月16日・17日放送。
NHK WORLD「Herbal Symphony」 2023年9月30日・2024年3月16日放送)

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宇陀の薬草文化や、薬草園を支える原野さんの仕事ぶりを世界に広く伝える価値が認められたわけですね。

「やたきや」でヘルスツーリズムを体験

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久保田さんが大和当帰を栽培されている畑がある「うだ 薬湯の宿 やたきや」は、2022年5月に開業とうかがいました。「やたきや」の魅力を教えてください。

「やたきや」は築300年にもなる広大な大和棟の古民家をリノベーションした宿泊施設です。
内装はできるだけ昔からの建具を活用していますが、屋根は、特徴的な茅葺(かやぶき)屋根や瓦も新しくふき替え、美しくよみがえらせました。

「やたきや」という名前は、榛原八滝(はいばらやたき)という地名からとっています。
集落の中でも高台の日当たりのよい場所にあり、周辺には薬草や野菜を育てている畑や、ヨガなどが楽しめるデッキや屋外テントサウナを設置、自然豊かな里山の風景が楽しめる散歩道が広がっています。

宿泊者以外でもランチやディナーが利用できるレストランも運営していて、敷地内で栽培した無農薬・有機野菜をつかったイタリアンベースの創作料理を提供しています。

東京で自分の店を経営していた経験もある棚木 武史(たなぎ たけし)シェフは、結婚を機に奥様の地元である宇陀へ移住してきました。ディナーは、野菜の素材の良さを活かした料理に、宇陀市の山間部で飼育されている黒毛和牛で、市内の限られた店舗でしか取り扱いのない宇陀牛(うだうし)のステーキを組み合わせたコースです。ヴィーガンメニュー(動物性食品を一切使わない料理)も用意可能です。

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久保田さんは「やたきや」の敷地内で薬草を育てていらっしゃいますが、その他にどのようなお仕事をされているのですか。

ここで育てた大和当帰の葉を使用した商品開発を手掛けています。ビタミンEの豊富な大和当帰の葉をふんだんに使い、厳選したスパイスをブレンドした「クラフトコーラシロップ」が好評です。「やたきや」のレストランでも提供していますが、自然豊かな里山と文化を「なつかしいみらい」として次世代に継承することを目指す通販サイト「なつみらショップ」でも販売しています(「なつみらショップ」へのリンクは本文後に掲載)。

また「やたきや」周辺で体験できるヘルスツーリズムのガイドも担当しています。

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ヘルスツーリズムとはどのようなものですか。

ヘルスツーリズムは、旅行という非日常な体験をきっかけに、健康を見直してもらったり、健康であることの大切さに気づいてもらったりすることです。

「やたきや」の宿泊者やイベントの参加者に、「やたきや」のまわりの緑豊かな森を案内するときに、ストレッチで体を伸ばしてもらいます。すると、空気の美味しさや森の匂いを五感でとらえてリラックスでき、自分の心と身体、そして自然のすべてがつながっているという思いが生まれてきます。「こういうことが健康につながっていくのだな」と、旅の中で自ら理解してもらえるのがヘルスツーリズムです。日常の世界に戻っても、朝の15分でストレッチをやってみようか、と自分の健康を促進するような行動にうつしてもらえるきっかけづくりになればいいと考えています。

大和当帰の畑を案内してくれる久保田さん

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宇陀の豊かな自然、大和当帰の葉の気持ちの良い香り、久保田さんの誠実なお話しぶりに、元気と健康をいただいた気がします。本日はありがとうございました。

久保田 勝典

久保田 勝典(くぼた まさのり)

三重県名張市出身。大阪産業大学卒業。
宇陀市地域おこし協力隊。
宇陀市薬草協議会と協力し、大和当帰の栽培管理や県内外へのPR活動、薬草の活用方法の探求や商品開発などを行う。「うだ 薬湯の宿 やたきや」の薬草観察ツアーを担当し、薬草を利用した活動も積極的に行っている。
趣味は薬草収集、グリーンウッドワーク、自転車。

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