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拡張万博で奈良の未来を創る

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梶 純子

梶 純子

「EXPO2025~大阪・関西万博」も会期後半に入り、全国的にも今年を象徴するイベントとして認知されるようになってきました。大阪府の隣県である奈良県で、会期前から、万博を奈良の未来にむけて活用していくべきだと考え、研究を続けられてきた中小企業診断士の梶 純子(かじ じゅんこ)さん。

梶さんに「拡張万博」とはどのようなものか、そして研究を続けていく中で、なにが見えてきたのか、奈良の未来のためには、どのように万博を活用していけばいいのか、話をうかがいました。

CONTENTS

「拡張万博」とはなにか

──

梶さんは、万博開幕前から、この万博を奈良の地域活性化に活かそう、という取り組みをされているとうかがっています。実際に万博会場に行かれて、どのような印象を受けられましたか。

楽しかったです。会場も思っていた以上に広かったですし、パビリオンもなかなか興味深かったです。一番良かったのは、やはり大屋根リングだと思います。

──

本当にそうですね。万博の世界観、スケール感が、あの大屋根リングに上るだけで、言葉の説明なく伝わってきます。

良かったですよね。開幕した後と、前評判とのギャップがすごくて、万博のコンテンツには高い評価が寄せられていると感じています。

──

開幕まではパビリオンの建設が遅れているなど、メディアでも不安要素が取り上げられることが多かったです。そんな中、梶さんと奈良県中小企業診断士会のメンバーは、開幕前から万博をテーマに研究を始められていらっしゃったのですね。

昨年(2024年)から、診断士会のメンバーとは「万博はチケットが売れてないとか言われているけど、絶対盛りあがるよね」と話していたんですよ。「奈良は開催地の大阪の横にある県だからこそ、万博の盛りあがりをどうにかできたらいいよね」というのが、今回の「拡張万博」をテーマにした診断士会の調査研究事業のきっかけでした。昨年9月から、診断士会の有志7名で調査を開始しました。

──

「拡張万博」というのは初めて聞いた言葉です。

近畿経済産業局が、万博活用戦略として推進している概念で、「拡張万博」とは

(1)

万博と連携した活動を関西一円のみならず全国に拡張する(空間的拡張)

(2)

2025年の万博会期中だけではなく、会期前から万博が終わった後も続くような活動を推進する(時間的拡張)

(3)

「いのち輝く未来社会」や「SDGs・Society5.0」といった万博のテーマやコンセプトを様々な自身の活動ととして表現する(テーマの拡張)

のように、万博概念をこの3軸で拡張し、万博開催を活用しつくす戦略です。

(引用:近畿経済産業局 「360°EXPO拡張マップ」 6つの目的)

私たちは、万博は184日間、大阪の夢洲(ゆめしま)で開催されるだけのものではないと捉え、「万博を活用することにより、奈良県の地域課題解決や経済発展等の取り組みをどう加速化させていくか」について、調査研究を進めました。

──

昨年から万博を意識されて、さらにはどう「拡張」していけるか、検討を続けられていたのですね。いただいた資料によると、研究の成果は2025年2月のリアル&オンラインイベントの開催を経て、3月にレポートにまとめられています。研究を終えられての所感をうかがえますか。

研究を始めた当初は、万博に関わられている企業を中心に進めていけばいいのかな、と話していました。奈良の会社さんでも、万博のグッズに採用されたという話もありましたし、企業と万博というイメージを持っていました。

──

前回のナララボの取材でも、村田製作所さんの万博での活動をご紹介させていただきました。企業としての素晴らしい取り組みの事例だと思います。

そうですね。ただ、私たちが調査研究事業を進めてわかったことは、結局、市民ひとりひとりの活動というか、気持ちというか、そちらが「拡張万博」なんだな、というのが結論だったんです。

──

面白いですね。万博という国家的なプロジェクトであっても、広げていくのは最終的には個人ではないか、ということですね。

はい。ひとりひとりの行動が万博を拡張していく。その行動がまわりを巻き込んでいき、広がっていくことが「拡張万博」なんだ、という結論に、結局はなりました。

ひとりひとりの行動と対話が万博を拡げていく

──

市民ひとりひとりの行動が「拡張万博」をつくっていく、という視点は、とても興味深いです。

ひとりひとりの行動、という意味は、「あそこの企業さんがやってくれるから」とか「誰々がやってくれるから」ではなく、全部"自分ゴト"でやることで広がっていく、ということです。

──

梶さんがさっき言われた"気持ち"という言葉もありましたが、確かに万博もテーマがすごく広いので、実際万博に行ってみても、感じることは人によって全然違うと思います。

そうなんですよ。今回の万博のコンセプトが「未来社会の実験場(People’s Living Lab)」なので、ひとりひとりが実験をいろいろ行う、自分が興味があることをどんどん進めていく。また、「未来社会を共創(co-create)」というキーワードもありますが、やっぱりコラボなんですよね。いろいろな人と共につくっていくのが大切です。

私は中小企業診断士なので、元々の研究も、「万博の盛りあがりをうまく各企業さんがその波に乗れるよう支援して、その支援先が発展できるといいな」ぐらいのところからスタートしていました。実際の研究の過程でいろいろな方にインタビューしていく中で、2022年から「広陵万博」をひとりで始めた奈良県広陵町の河野瀬 大貴さんという方に出会いました。

河野瀬さんは、最初、広陵町役場の広報の部署に配属になり、その後、近畿経済産業局に出向になったそうです。出向が終わってまた広陵町役場に戻ってこられたのですが、役場では数年ごとに部署の異動があります。でも、広報の仕事を通じて知り合った町の人たちとの繋がりを切りたくない。だから、役場の仕事としてではなく個人で広報を続けようと考えられ、2020年に「エモい町、広陵町」というSNSを始められました。

ただし、SNSの場合、面白い活動をしている人たちを紹介するときに、自分のニュアンスが入ってしまう。そこで、本人が自分自身で自分の活動を話せる場を設けたいと考え「広陵万博」というイベントを始めたそうです。

「広陵万博」は既に3回実施されていますが、「広陵万博はずっと続けていきたい。オリンピックの聖火じゃないけど、万博を機についた火を消さないようにしたい」という河野瀬さんの言葉は、非常に印象に残っています。

第3回「広陵万博」の様子 Yahooニュース記事(2024.9.13)より引用

このインタビューをしたときに、それまで企業中心に調査を進めようと考えていた趣旨が少し変わりました。
企業というより、結局は個人の方の思いが「拡張万博」をつくっていくのではないかというマインドチェンジのきっかけだった気がします。

──

2025年2月には「拡張万博」をテーマに、リアル&オンラインイベントを開催されています。

「エフェクチュエーションで未来を創造する ~2025大阪関西万博をきっかけとして~ 未来をみんなで創ってみませんか?」と題して、ワークショップを開催しました。万博開催を間近にした時期に、奈良をはじめとした日本の魅力・可能性を発信し、未来を自ら共創することを、多様な参加者同士の対話を通して一緒に考えていく試みです。

──

「エフェクチュエーション」というキーワードが出てきました。

「エフェクチュエーション」とは、一言でいえば「優れた起業家が用いる意思決定の理論」のことです。優れた起業家には共通の思考プロセスがあり、それを抽出したものが「エフェクチュエーション」で、「手中の鳥(Bird in Hand):自分が持っている現実から行動を始める」、「クレイジーキルト(Crazy Quilt):独りではなく周りに助けを求める」などの原則から構成されています。

ワークショップでは「アフター万博を奈良でやるとしたら」というテーマをエフェクチュアルな視点からとらえ、数人のチームごとに対話を重ねていき、企画を発表してもらいました。

──

ワークショップに「エフェクチュエーション」という考え方を導入されたのはなぜですか。

「エフェクチュエーション」は、未来の予測が困難な環境での意思決定方法として、近年注目されています。今回、「拡張万博」というテーマで調査研究を進めていく上で、どういう結論に行きつくか全然見えなかったんです。なので「エフェクチュエーション」が合っていると思いました。

──

ワークショップをやってみて、いかがでしたか。

「こういう話の流れになるんだ」と結構面白かったですね。「奈良でのアフター万博」と言われても、参加者の方もそれぞれみんな正解なんかなくて、結局は「自分が思う未来に向けて、自分で動くしかないよね」というのが、私たち主催者側としても確信が持てたのが、このイベントだったかなと思います。大事なのは「行動すること」と「対話すること」だということがワークショップの結論でした。

──

「行動」と「対話」というのは、どういう意味ですか。

ひとりひとりの行動、という話をしましたが、独りよがりにやっても、あまり広がらないんです。ちゃんと対話していって、どんどん巻き込んでいく。企業だけでもダメだし、自治体だけでもダメで、みんなでいろいろと対話して進めていく。その中で、ひとりひとりが少しずつ行動していくことが大切です。

──

「行動」に「対話」がプラスされることで、万博を拡張していけるのですね。

「万博」というのは、物価高などネガティブな外部環境が多い閉塞感を払拭したい、変えたい、という今この時代で「ポジティブなライブ環境が欲しい」というみんなの願いがかたちになっていると思います。なので「万博を拡張する」という言葉は、みんなすごく刺さりやすいんですよ。

ですから、なにか行動するのに「今の万博を活かして、拡張させるかたちでやるんだったら、どう?」と言うと、「じゃあ、こういうのをやろうかな」となって動き出すきっかけになりやすい言葉だと思っています。

逆に言うと、「万博」というかたちはなくなってもいいと思っているんですよ。

──

なるほど。かたちではなくて。

「万博というイベントが楽しかった」で終わりは意味がないなと思っています。「万博」という会場に行ったり、「万博」のニュースを見て感じたりしたことを、今後、みんなが少しずつ活かしていって、新しい試みを始めていけるといいですね。

万博のキャラクターに「ミャクミャク」という名前がついているのは、そういう意味だと思うんです。

──

「脈々」と繋がっていく、という意味ですね。

奈良のように歴史が脈々と繋がっていて、1000年前以上前からシルクロードの終着地として世界と繋がっているこの場所にいると、そう感じます。

ワークショップの様子(2025.2.16)

内向型の人こそ起業に向く

──

ここからは、奈良で中小企業診断士として活躍されている梶さんのキャリアについて、おうかがいします。奈良ご出身とうかがいましたが、東京でも働いていた期間があるのですね。

はい。大学まで奈良に住んでいました。最初の就職先が東京でした。その後、関西勤務の異動願いを出して、関西に戻ってきて、中小企業診断士の資格をとって、2015年に登録しました。
実は2014年の診断士の2次試験の約1ヶ月前に、2人目の子供を出産していたのですが、試験にも無事受かりました。

2015年に奈良県中小企業診断士会に登録したときは、まだ育休中でした。そこで副業として診断士の仕事を始めたのですが、今でも続いている案件もあります。

──

会社から独立されたのは、いつですか。

2021年です。コロナ禍で、補助金申請などの診断士の仕事がどんどん増えていって、2021年の年末で会社を辞めました。

2019年に、会社の社内表彰を受けたのですが、社外の審査員の中に、当時、京都大学准教授だった瀧本 哲史さんがいらっしゃいました。瀧本さんは残念ながら、2019年8月に亡くなられたのですが、表彰のときにお会いしたのが5月で、そのときにかけていただいた言葉に感銘を受けました。瀧本さんは2011年に「僕は君たちに武器を配りたい」という本を出版されているのですが、自分も若い人に「武器を配る」ような仕事ができたらいいなと、そのときに思ったんです。

──

若い方に、経営のノウハウなどを伝えていくという仕事ですね。

それが、少し叶えられているのが、診断士になって良かったと思うことです。この間も福井県の中学校で話をしてきて、昨日も奈良商工会議所の「創業塾」の講師をやってきました。ここのBONCHIでセミナーを開催しても、割と若い人が多く来てくださいます。他にも奈良市の伝統工芸の若手作家さんのビジネスの支援をするということもやっています。

──

起業や創業にかかわるお仕事が多いんですね。

はい。前の会社では外向型の社員がほとんどだったのですが、創業相談をしていると、世の中、内向型の方がとても多いと思うようになりました。相談に来てくださる方は、ご自身でとても考えているのに行動しない方が多いんです。しっかりシュミレーション しているのに「考えてません」って言っていたりします。それでも相談しに来てくれるのはすごいんですが、来られない人がもっといるんじゃないかと思って、本を書きました。
「内向型だからうまくいく『ひとり起業』5つのステップ」というタイトルで、今年(2025年)4月に出版しました。

──

一般論ですが、奈良県民気質として、穏やかで内向的な方が多いように感じます。奈良で起業されたいと考えている方にもヒントになりそうですね。これからの梶さんのますますのご活躍を応援しています。

梶 純子

梶 純子(かじ じゅんこ)

奈良県奈良市出身。同志社大学経済学部卒業。
新卒で株式会社リクルートスタッフィングに入社。
2015年に中小企業診断士登録。2021年に独立し、現在は合同会社Office Walk on代表社員。
奈良市の創業支援施設「BONCHI」にて、いつでもどなたでも創業相談を受け付け中。
2025年4月に『内向型だからうまくいく「ひとり起業」5つのステップ』を出版。
プライベートでは2児の母。趣味はタロット占いと終わりの見えないダイエット。

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