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奈良でなりわいをつくりだす

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中島 章

中島 章

奈良といえば「観光」のイメージで、「奈良で働く」、「奈良で起業する」という選択肢を考える方は少ないかもしれません。近年の統計局調査でも「県外就業率」(他県で就業する人の割合)が都道府県別では3番目に高く、「配偶者がいる女性の有業率」は全国で最も低い結果となっています。

今回お話を聞いた中島 章(なかじま あきら)さんは、奈良県出身。約10年間、東京で働かれた後にUターンして奈良で起業。創業支援施設「BONCHI」や新規事業立案プロジェクト「ならわい」と、「奈良で働くしくみ」を次々と生み出しています。

筆者は、2024年の「ならわい」の参加者のひとりとして、中島さんに出会いました。奈良で働く素晴らしさを体現している中島さんのキャリアや「ならわい」について、話をうかがいました。

CONTENTS

奈良市 創業支援施設「BONCHI」

働く場所としての「奈良」の特性とは

──

中島さんとは昨年(2024年)12月の「ならわい」の最終発表会以来ですね。本日はよろしくお願いします。

中島さんは奈良市ご出身で、大学を卒業されてから東京で約10年働かれています。

東京で、人材サービス会社に就職したのですが、「東京に出たかった」という意味はあまりなくて、たまたま配属が東京の本社だったという感じでした。

──

10年間東京で働かれて奈良にUターンされたわけですが、それまで10年間もの間、東京で頑張れた理由はなんだったのでしょうか。

3年目ぐらいから「奈良に戻って何かやりたいな」と思っていました。「10年間頑張れた」というより、「自分には手に職がなくて、奈良で何ができるんだろう」というのが見えなかったというのが正しいかな、と思っています。

当時は営業職でしたが、例えば僕がエンジニアで「どこでも仕事ができます」という状況だったら、もっと早く奈良に戻っていたかもしれません。営業職から企画の仕事に移っていろいろ経験しましたが、「これなら奈良でやっていける」というレベル感にはなかったです。人材サービス会社では7年半働いたのですが、「自分が考える中で一番厳しい環境で鍛えよう」と考えて、同じく東京にあるコンサルティング会社に転職しました。

──

コンサルティング会社は厳しかったですか。

期待どおりの厳しさでした。戦略のチームに入ったのですが、中期経営計画をつくったり、収益改善を目指したりする仕事の他にも、顧客満足度を上げる、工場の生産性を上げる、ITシステムの要件定義をする、など業務領域がとにかく幅広く、しかも同時並行で取り組むことが多かったです。その会社では3年ぐらい働きました。

──

その後、奈良に戻られましたが、どのようなきっかけだったのでしょうか。

2014年に、NPO法人ETIC.(エティック)が企画していた地域版起業家プログラムに参加しました。プログラム自体は東京での実施だったのですが、自分が働きたい地域のフィールドワーク(現地調査・活動)がありました。そのときに奈良で活躍されている方や起業家の方に出会って、「こういう生き方、働き方もできるんだな」というイメージがわきました。

「この人は、どうやってご飯を食べてるんだろう」という方もいて、結構衝撃的でした。東京で就職して、転職もしましたが、これまでは、会社で働いていると似たような属性の人しか、あまり関わっていなかったことに気づいたのです。奈良より東京の方が圧倒的に人の数は多いはずなのに、よく見ると価値観が似通った人が多かったです。一方、奈良で出会った人達が本当に多彩で魅力的で、なかなか出会えないような方々との出会いがあったことが、自分の中では大きなきっかけになりました。

──

2015年に奈良に移住されて、2016年に「奈良移住計画」プロジェクト、2019年には一般社団法人「TOMOSU」を立ち上げられています。2020年には奈良市所有のビル(旧「きらっ都・奈良」)の運営を受託し、創業支援施設「BONCHI」をリニューアル・オープンされました。

今、インタビューしているのが、その「BONCHI」の会議室ですが、とてもおしゃれで気持ちのいい空間ですね。2020年度の「グッドデザイン賞」も受賞されています。
リニューアルされたときに留意されたのは、どのようなことだったのでしょうか。

ここは建築家やデザイナーの方とのチームで、奈良市からのプロポーザル(公募)に応募して採択されたのですが、提案のときから、「奈良」という場所の特性はなにか、というのを考えてリニューアルを進めたつもりです。

リニューアル前のこちらは小さい店舗がいくつもあるチャレンジショップのようなかたちでした。奈良市としても小売業だけではなく、より広くいろいろな産業を生み出していきたい意向もあり、コワーキングスペースとして、デザイナーやエンジニアなど様々な業種の人たちを増やしていくというところが、大きな切り替えとしてありました。

その中で僕ら目線でしかないかもしれないのですが、奈良は「持続可能な地域や社会が生まれる場所」として最適ではないかと考えています。リニューアルを検討していた当時から「SDGs」(Sustainable Development Goals: 持続可能な開発目標)という言葉はありましたが、奈良はそんな言葉が出てくる前から1300年以上「持続」しているじゃないですか。

効率性や利便性というのは都市の方が圧倒的に強いんだけど、奈良のこのあたりを少し歩けば、歴史的なものがあったり、豊かな自然を感じたりすることができます。そんな恵まれた環境で、視野を広げて考えを深めることができれば、クリエイティブに満ちた仕事ができるのではないか、と僕は信じていますし、そう考えてつくったことが評価されているのではないかと思っています。

「クリエーティブハブ」としてのBONCHIのイメージ

奈良(なら)で新規事業(なりわい)に取り組む「ならわい」

「ならわい」とは

奈良県外に住む参加者が、奈良の企業の新規事業立案プロジェクトを通して、奈良との継続的な関係を築くきっかけを作ることを目的としています。

主催は奈良市で、企画・運営を中島さんが代表理事を務める一般社団法人TOMOSUが担当しています。

県外からの参加者は、1グループ3名で、約4ヶ月間、奈良市での活動と、オンラインミーティングを併用して、県内の企業の新規事業を立案します。

第1回が2022年で、2024年9~12月に第3回の実施となりました。過去には地元の伝統工芸、書店、レストランなどの新規事業に取り組みましたが、第3回の対象企業と新規事業のテーマは以下の3つ。

- バンビシャス奈良:ホームアリーナを全試合満席に
- 奈良交通:貸切バスを活用したワクワクする体験
- リリオンテ:国産青果クラフトチップスの商品企画

各参加者グループの事業計画策定などをサポートする「メンター」や、奈良を拠点に活躍する先進的な起業家、中島さんたちBONCHIや奈良市役所による運営事務局と多くの方々が「ならわい」に関わります。

2025年3月には、新たに学生を対象とした3日間の短期集中プログラム「ならわい for students」も始まります。

──

「ならわい」は「奈良県外からの移住促進」と「奈良県内の企業の新規事業開発」が目的ですが、一見、かなり性質が異なったテーマの組み合わせにも思えます。

自分の場合がETIC.(エティック)の起業家プログラムに参加したことが「移住」のきっかけになったこともあり、そのようなきっかけを生み出していきたいとは思っていました。「移住」だけだと、奈良に移住して大阪で働くこともできなくはないのですが、せっかくであれば「奈良に住んで働きたい」という人が出てくるきっかけにしたいと考えました。

それと、奈良以外に住んでいる方で、わざわざ「奈良で新規事業に取り組みたい」という人たちを受け入れることによって、なにか「化学反応」のようなことが起きないかなと期待しているところもあります。

──

いままでどんな「化学反応」がありましたか。

例えば参加者の方で、「ならわい」で今まで働かれていた業種とは異なる業種の仕事を体験することとなり、「ならわい」に参加された後に、実際に奈良で、その業種の仕事につかれた方もいらっしゃいました。その方にとってはキャリアを変える大きなきっかけになりましたし、よい「化学反応」だったのではないかと思います。
移住されなかった参加者の方とも関わり合いが続くこともあり、それもよいところです。

「ならわい」 最終発表会の様子

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「ならわい」運営事務局のみなさんが、とても和気あいあいと親しく運営されていたのも印象に残りました。

企画当初からの付き合いの柏木さん(奈良市 産業政策課 柏木徹也課長)をはじめとした奈良市役所のみなさんや、メンターの方々とも、杓子定規な仕事関係ではない、協力関係を築くことができています。参加者の方は3人チームで活動していただきますが、初対面の方々なので、チーム内のバランスが取りにくそうなときなどは、運営事務局側で検討して、早めに対応するようにしています。

──

「ならわい」の運営で苦労される点は、やはりそういった人間関係の部分でしょうか。

そういった部分はありますが、何もなければ、もうそのまま好きにやっていただいた方がいいものができると思うので、「とにかくここはこうしてください」というような言い方はしていません。

あとは、プログラムの参加者は県外の方が対象なので、広報面で人がどれぐらい集まるか見えない部分は毎回あります。書類選考があるのですが、みなさん、ありがたいことなんですけども、すごく熱心に書いてくださるんですよね。そうなると締め切りギリギリに応募される方も多いので、どのぐらい申し込みがあるかわからない中でドキドキしています。

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「ならわい」を運営してきて、一番「良かった」と感じられるのはどんなときですか。

もちろん、参加者が「ならわい」の後に「奈良に移住することにしました」と言われることもうれしいし、「奈良でこんなことがやりたい」といった相談を受けるっていうのもうれしいですね。「ならわい」に参加された方が、新たなことにチャレンジするときに相談をしていただけるとすごくうれしいです。

ちょっと余談かもしれないですけど、昨年の「ならわい」の対象企業だった「バンビシャス奈良」(プロバスケットボール「Bリーグ」所属)では、「ロートアリーナ奈良の全試合観客満席を設計する」がテーマでした。
このテーマに取り組んだ参加者が、自主的に観客を対象にアンケートを取ってくれたのですが、先日、「バンビシャス奈良」の「ブースター(ファン)」の方がわざわざBONCHIまで来てくださって、「ならわい」の発表の後、「バンビシャス」の運営がブースターの声を反映して「少し変わったような気がする」と話してくれたのは驚きましたね。対象企業の方ではなくて、まさかのブースターの方からの反響だったので、新しいうれしさでした。

「ならわい」 ロートアリーナ奈良でのフィールドワーク

奈良をキャリアの「実験」の場に

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「ならわい」を含めて、「奈良で働きたい」、「奈良で起業したい」という方の支援を続けられていますが、奈良で働くことを検討している方々に伝えたいことはありますか。

奈良で働くことを考えているのであれば、観光や帰省だけでなく、「もう一歩、奈良に踏みこんでみませんか」と言いたいです。「ならわい」などのプログラムに参加したり、起業も選択肢に入れて奈良の人たちと話してみたりして、関係性ができることによって、「自分のキャリアにちょっと区切りをつけて、奈良でチャレンジしよう」という気持ちが高まってくるかもしれません。

「奈良で働こうかどうか迷ってる」ぐらいだったら「やったらいいんじゃない」と言いたいですね。失敗しても、日本にいたら別に生活が立ち行かなくなることはないと思うので、絶対やった方がいいです。考えることも、準備することもとても大切ですが、どこかで行動してみるってことができるかできないかによって、その後の人生が大きく変わるんだろうなと思っています。

言葉で言えば、「挑戦」というよりは「実験」という方が好きです。「挑戦」だと、成功したか、失敗したかという結果を求められそうですが、「実験」だったら、「今回はうまくいかなかったな、じゃあ次はどうしようか」という感じで、次にもつながっていきます。

実験なので、いろんなやり方があると思います。僕のように会社を辞めてチャレンジしてみるのもいいですが、最近では副業やリモートワークも一般的になってきているので、昔よりも選択肢が格段に増えています。人それぞれのやり方で「実験」していくのがいいのではないでしょうか。

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最後に、これから奈良でやっていきたいことはありますか。

BONCHIは2020年にリニューアル・オープンさせてから、今度の3月で5年になります。
「これから」で言うと、BONCHIを拠点として活用しながらも、奈良という地域全体がもっと面白くなるような、いろいろな場所でプロジェクトが起きてくるような仕組みをつくっていきたいです。実際に、環境省の事業(令和6年度地域循環共生圏づくり支援体制構築事業)を活用した共創のプロジェクトなども始めています。

──

これからも、中島さんの「働く場所としての奈良をもっと面白くする」活動に期待しています。
ありがとうございました。

「ならわい」 最終発表会での記念写真

中島 章

中島 章(なかじま あきら)

一般社団法人TOMOSU 代表理事
1982年生まれ。奈良市出身。
東京の人材サービス会社、コンサルティング会社を経て、2015年に奈良にUターン移住・起業。
2016年 「奈良移住計画」プロジェクト立ち上げ、2019年 一般社団法人「TOMOSU」設立。
2020年 創業支援施設「BONCHI」リニューアル・オープン、運営を受託。
2022年より「ならわい」プロジェクトを運営。

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